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農水産
 
【発明の名称】種子の製造方法
【国際特許分類】
A01C 1/06 (2006.01)
【FI】
A01C 1/06    Z    
【早期審査対象出願】
【特許権者】
【識別番号】715007598
【氏名又は名称】中川 公一
【住所又は居所】神奈川県横浜市港南区上永谷6丁目12番2号
【発明者】
【氏名】中川 公一
【住所又は居所】神奈川県横浜市港南区上永谷6丁目12番2号
【要約】
【課題】酸化鉄粉を含む被膜を有する植物種子の製造方法において、水中に浸漬しても剥離等が生じにくい植物種子の製造方法を提供することである。
【解決手段】種子の製造方法は、酸化鉄を植物種子の表面に付着させた種子の製造方法であって、植物種子と、粉状又は粒状の酸化鉄と、結合剤として機能する親油性の樹脂を含む水性塗料を準備する準備工程と、植物種子に酸化鉄を付着させるために必要な水性塗料の混合被膜生成量を決定するための被膜生成量決定工程と、植物種子、酸化鉄、及び混合被膜生成量の水性塗料を混合する混合工程とを含む。
【選択図】図1
選択図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を植物種子の表面に付着させた種子の製造方法であって、
前記植物種子と、粉状又は粒状の前記酸化鉄と、結合剤として機能し、親油性の樹脂を含む水性塗料を準備する準備工程と、
前記植物種子に前記酸化鉄を付着させるために必要な前記水性塗料の混合被膜生成量を決定するための被膜生成量決定工程と、
前記植物種子、前記酸化鉄、及び前記混合被膜生成量の前記水性塗料を混合する混合工程と、を含み、
前記混合被膜生成量は、前記酸化鉄間の空隙が前記水性塗料で充填される状態とするのに必要な水性塗料量である酸化鉄吸油量と、前記水性塗料で充填される状態の前記酸化鉄を前記植物種子に混合したときに、前記植物種子の表面に前記酸化鉄を付着するために必要な水性塗料量である種子被膜生成量とを含み、
前記被膜生成量決定工程は、前記酸化鉄吸油量を決定するための酸化鉄吸油量決定工程と、前記種子被膜生成量を決定するための種子被膜生成量決定工程を含むことを特徴とする種子の製造方法。
【請求項2】
前記酸化鉄吸油量決定工程おいて、前記酸化鉄吸油量は、前記酸化鉄に前記水性塗料を混入し、当該酸化鉄が団子状となるまで供給したときの水性塗料の量として求めることを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項3】
前記種子被膜生成量決定工程において、種子被膜生成量は、前記酸化鉄に前記水性塗料を混入し当該酸化鉄が団子状となった酸化鉄に前記植物種子を混合した後、水性塗料を更に混合し、前記植物種子の表面に前記酸化鉄が付着した状態で単独粒となるときの量として求めることを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、
前記植物種子と前記酸化鉄とを混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程の後に、前記混合被膜生成量の前記水性塗料を徐々に混合する第2混合工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項5】
前記水性塗料が、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、又はポリ酢酸ビニール系樹脂のうちの少なくともいずれか一つの樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項6】
前記酸化鉄が、ヘマタイト、ゲータイト、又はマグネタイトのうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程の後に、更に、酸化鉄粉、薬剤、及び水溶性のポリビニールアルコール樹脂とを混合して、前記植物種子の表面に、前記薬剤を付着させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の種子の製造方法。
【請求項8】
前記薬剤として、除草剤、農作物を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤、或は農作物の生育の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤を含むことを特徴とする請求項7に記載の種子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、稲作の一手段として、直播栽培と称される稲籾を直接水田に蒔く方法が開発されている。
【0003】
直播栽培として、例えば、鉄粉(Fe)を稲籾の表面に付着させ、例えば結合剤として石膏(硫酸カルシウム)を用いて固着させた稲種子の製造方法が知られている。鉄粉を稲籾に付着させることで、その重量を大きく、その結果、水田にこの稲種子を蒔いた時、素早く沈降し流水にも流されにくくしたものである。
【0004】
特許文献1(特開2005-192458号公報)には、鉄粉を稲種子の表面に付着させる方法として、金属鉄粉の酸化反応を促進することにより、稲種子表面に鉄粉を付着、固化させた鉄粉被覆稲種子の製造方法が開示されている。また、結合剤として、硫酸カルシウムを用いることも記載されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2019-122269号公報)には、酸化鉄粉を含む被膜を有する植物種子の製造方法が記載されている。また、結合材として、消石灰を用い、さらに、強度向上剤としてPVA(ポリビニールアルコール)が用いられることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2005-192458号公報
【特許文献2】 特開2019-122269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の鉄粉被覆稲種子の製造方法では、鉄粉が用いられる。稲種子表面に付着、固化させた鉄粉が、酸化反応により発熱し、高温となるため、稲種子が死滅する危険性がある。また、稲種子表面に鉄粉を付着させた稲種子表面には、結合剤と鉄粉が混合した被膜が形成されるが、鉄粉が酸化して酸化鉄に化学反応する際に膨張し、被膜にひび割れ、或いは剥離等が生じる場合がある。これを防ぐために、一度被膜を形成した後、再度、結合剤を稲種子表面にコーテイングすることが行われる。このように、被覆稲種子の製造に手間が掛かり、製造のために長時間を要するといった課題もある。
【0008】
また、鉄粉の酸化反応による発熱を回避するために、特許文献2に記載の植物種子の製造方法では、鉄粉の代わりに発熱しない酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)を用いることが記載されている。また、結合剤として、消石灰(Ca(OH)2)を用いること、さらに付着強度を向上するためのPVA(ポリビニールアルコール)を使用することも記載されている。しかし、結合剤として用いる消石灰、及びPVAは、共に水溶性であり、水に対する溶解度が大きいために、酸化鉄粉を付着させた稲籾を水中に浸漬すると、消石灰及びPVAが部分的に水に溶解して、酸化鉄粉が稲籾の表面から剥離するといった課題が生じる場合がある。
求められているのは、酸化鉄粉を含む被膜を有する植物種子の製造方法において、水中に浸漬しても剥離等が生じにくい植物種子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る種子の製造方法は、酸化鉄を植物種子の表面に付着させた種子の製造方法であって、前記植物種子と、粉状又は粒状の前記酸化鉄と、結合剤として機能し、親油性の樹脂を含む水性塗料を準備する準備工程と、前記植物種子に前記酸化鉄を付着させるために必要な前記水性塗料の混合被膜生成量を決定するための被膜生成量決定工程と、前記植物種子、前記酸化鉄、及び前記混合被膜生成量の前記水性塗料を混合する混合工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る種子の製造方法では、結合剤として機能する水性塗料を用いているので、酸化鉄を付着させた植物種子を水中に浸漬した場合でも、酸化鉄が植物種子の表面から剥離せずに、十分な付着強度を有することができる。また、植物種子、酸化鉄、及び水性塗料を混合する混合工程の前に、植物種子に酸化鉄を付着させるために必要な水性塗料の混合被膜生成量を決定するための被膜生成量決定工程を有することにより、混合工程における混合作業が容易となり、また混合時間の短縮化することができる。
【0011】
また、本発明に係る種子の製造方法において、前記被膜生成量決定工程は、前記酸化鉄間の空隙が前記水性塗料で充填される状態とするのに必要な水性塗料量である酸化鉄吸油量を決定するための酸化鉄吸油量決定工程と、前記水性塗料で充填される状態の前記酸化鉄粉を前記植物種子に混合したときに、前記植物種子の表面に前記酸化鉄粉を付着するために必要な水性塗料量である種子被膜生成量を決定するための種子被膜生成量決定工程を含むことを特徴としてもよい。
【0012】
本発明に係る種子の製造方法では、被膜生成量決定工程が、酸化鉄吸油量決定工程と種子被膜生成量決定工程とを含むことにより、それぞれの工程において、酸化鉄吸油量、及び種子被膜生成量を求めることができるので、植物種子に酸化鉄を付着させるために必要な水性塗料の混合被膜生成量をより正確に求めることができる。
【0013】
また、本発明に係る種子の製造方法において、酸化鉄吸油量決定工程おいて、前記酸化鉄吸油量は、前記酸化鉄に前記水性塗料を混入し、当該酸化鉄が団子状となるまで供給したときの水性塗料の量として求めることを特徴としてもよい。これにより、酸化鉄吸油量を正確に、且つ再現性良く求めることができる。
【0014】
また、本発明に係る種子の製造方法において、種子被膜生成量決定工程において、種子被膜生成量は、前記酸化鉄に前記水性塗料を混入し当該酸化鉄が団子状となった酸化鉄に前記植物種子を混合した後、水性塗料を更に混合し、前記植物種子の表面に前記酸化鉄が付着した状態で単独粒となるときの量として求めることを特徴としてもよい。これにより、種子被膜生成量を正確に、且つ再現性良く求めることができる。
【0015】
また、本発明に係る種子の製造方法において、前記混合工程において、前記稲籾と、酸化鉄粉とを混合する第1混合工程と、前記第1混合工程の後に、前記混合被膜生成量の前記水性塗料を徐々に混合する第2混合工程と、を含むことを特徴としてもよい。これにより、植物種子の表面に、酸化鉄粉を均一に付着させることができる。さらに、第2混合工程において、植物種子に酸化鉄粉が付着する状態を観察しながら、混合する水性塗料の量を微調整しながら添加することができるので、確実に、所望の種子を得ることができる。
【0016】
本発明に係る種子の製造方法において、前記水性塗料が、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、又はポリ酢酸ビニール系樹脂のうちの少なくともいずれか一つの樹脂を含むことを特徴としてもよい。
【0017】
本発明に係る種子の製造方法において、前記酸化鉄が、ヘマタイト、ゲータイト、又はマグネタイトのうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴としてもよい。
【0018】
本発明に係る種子の製造方法において、前記混合工程の後に、更に、酸化鉄粉、薬剤、及び水溶性のポリビニールアルコール樹脂とを混合して、前記種子の表面に、前記薬剤を付着させる工程を含むことを特徴としてもよい。
【0019】
本発明に係る種子の製造方法では、水性塗料を介して酸化鉄が付着した植物種子の表面に、更に、酸化鉄粉、薬剤、及び水溶性のポリビニールアルコール樹脂とを混合して薬剤を付着させることができる。この種子を播種したときに、薬剤が植物種子の表面に付着しているので、薬剤を播種後に別途散布する必要がなくなるので、植物種子の播種作業負担を低減することができる。
【0020】
本発明に係る種子の製造方法において、前記薬剤として、除草剤、農作物を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤、或は農作物等の生育の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤を含むことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る種子の製造方法では、結合剤として機能する水性塗料を用いているので、酸化鉄を付着させた植物種子を水中に浸漬した場合でも、酸化鉄が植物種子の表面から剥離せずに、十分な付着強度を有することができる。また、植物種子、酸化鉄、及び水性塗料を混合する混合工程の前に、植物種子に酸化鉄を付着させるために必要な水性塗料の混合被膜生成量を決定するための被膜生成量決定工程を有することにより、混合工程における混合作業が容易となり、また混合時間の短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本実施形態に係る種子の製造方法を説明するためのフローチャート図を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る種子の製造方法を説明するための図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る混合工程を説明するための図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る別の混合工程を説明するための図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る別の混合工程を説明するための図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る別の混合工程を説明するための図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る別の混合工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態に係る植物種子の被膜の製造方法では、結合剤として水性塗料を用いて、植物種子の表面に酸化鉄粉を含む皮膜を形成することができる。また、植物種子の製造方法は、準備工程、被膜生成量測定工程、混合工程、及び乾燥工程を含むことができる。以下に、植物種子の被膜製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、植物種子として、稲籾を用いて、この稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させて籾を製造する場合について説明する。しかし、これに限定されることはなく、植物種子として、稲籾の他に、胡麻、小豆、大福、落花生などの種子にも適用することができる。
【0024】
(実施形態1)
本実施形態に係る植物種子の製造方法は、 準備工程S001、被膜生成量測定工程S002、混合工程S003、及び乾燥工程S004を含むことができる。以下に、各工程について詳細に説明する。
【0025】
(1)準備工程S001
まず、準備工程S001について説明する。準備工程S001では、植物種子としての稲籾、酸化鉄粉、及び結合剤としての水性塗料を準備する。稲籾は、あらかじめ塩水選後乾燥した状態で保存されている。酸化鉄粉としては、ヘマタイト(Fe2O3)、ゲータイト(Fe2O3・H2O)、又はマグネタイト(Fe3O4)を用いることができる。本実施形態では、磁性を有するマグネタイト(Fe3O4)を用いることができる。
【0026】
また、結合剤として、水性塗料を用いることができる。特に、水中に浸漬した場合に、酸化鉄粉の剥離等が生じにくいようにするために、親油性の樹脂を含む水性塗料を用いることができる。また、水性塗料に含まれる樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、及びシリコン系樹脂を用いることができる。
【0027】
また、酸化鉄粉を稲籾の表面に付着させるために用いる結合剤は、エマルジョンの状態となっていることが好適である。エマルジョンの状態では、樹脂が水性塗料に含まる水中に均一に分散することができ、これにより、酸化鉄粉を稲籾の表面に均一に付着させることができる。親油性の樹脂を含む水性塗料では、エマルジョン状態で樹脂が水中に分散させており、このために乳化剤が添加されている。従い、本実施形態において、親油性の樹脂を含む水性塗料を結合剤として用いることが好適である。
【0028】
(2)被膜生成量測定工程S002
次に、被膜生成量測定工程S002について説明する。被膜生成量測定工程S002には、酸化鉄吸油量決定工程S022aと種子被膜生成量決定工程S002bを含むことができる。
【0029】
稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させるためには、稲籾、及び酸化鉄粉の表面に水性塗料の被膜を形成し、この水性塗料を介して、稲籾に酸化鉄粉を付着させることができる。本工程では、稲籾に酸化鉄粉を付着させるために必要な水性塗料の量(以下、混合被膜生成量と言う。)を決定する。以下に、混合被膜生成量の測定方法について、詳細に説明する。
【0030】
(a)酸化鉄吸油量決定工程S022a
図3に、水性塗料の混合被膜生成量の測定方法を説明するための概略図を示す。図3において、図3(a)〜図3(e)は、この順に、酸化鉄粉、稲籾、及び水性塗料の混合のタイミング、及びその混合状態を説明している。なお、図3(a)から図3(e)にいくにしたがって、供給する水性塗料の量が増加している。まず、図3(a)に示すように、酸化鉄粉と水性塗料とを混合することにより、酸化鉄粉に水性塗料が付着し、酸化鉄粉が凝集する状態となる。さらに、水性塗料を追加混合すると、図3(b)に示すように、団子状の酸化鉄粉が形成される。このときに供給した水性塗料の量を酸化鉄吸油量と定義する。この酸化鉄吸油量は、以下の方法で求めることができる。例えば、酸化鉄粉10gをベースにして、酸化鉄吸油量を測定した。酸化鉄粉10gに、水性塗料を滴下しながら、攪拌し混ぜ合わせる。その後、酸化鉄間の空隙が水性塗料で充填される状態となるのを観察し、酸化鉄と水性塗料が均等に詰まった状態になるまで滴下し混合する。この水性塗料が均等に詰まった状態まで滴下した水性塗料の量を酸化鉄吸油量として決定することができる。
【0031】
本実施形態では、水性塗料として、アクリル樹脂含有水性塗料である日本ペイント社製ニッペシーラー、及びアクリル・シリコン系樹脂含有水性塗料(アサヒペン社製水性塗料クリアー)を用いた。
【0032】
本実施形態において、酸化鉄粉10gに対する酸化鉄吸油量は、アクリル樹脂含有水性塗料の場合、容積で1.9ml(重量で2.1g)であった。また、アクリル・シリコン系樹脂含有水性塗料の酸化鉄吸油量は、容積で約3.1ml(重量で約3.6g)であった。
【0033】
なお、酸化鉄粉は、粉状、又は粒子状の状態で使用することができる。また、酸化鉄粉は、その形状がほぼ球形であり、また、その粒径は、篩等を使用して、所定の粒径以下(例えば、直径100μmφ以下)の鉄粉を使用することができる。本実施形態では、酸化鉄粉の粒径として、約45μmφ以下の酸化鉄粉を用いることができる。
【0034】
(b)種子被膜生成量決定工程S002b
次に、図3(c)に示すように、団子状の酸化鉄粉に、所定量の稲籾を混合する。この状態では、団子状の酸化鉄粉の周りに稲籾が付着する。次に、図3(d)に示すように、さらに水性塗料を少しずつ滴下しながら混合する。少しづつ酸化鉄の団子が分離すると共に、水性塗料が酸化鉄粉の間、及び稲籾の表面にも拡がり、この拡がった水性塗料により、稲籾に酸化鉄粉が付着しはじめる。次に、図3(e)に示すように、さらに水性塗料を滴下混合することにより、酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されて、この被膜が形成された単独粒の稲籾が形成される。以上で述べた団子状の酸化鉄粉に稲籾を混合した後に供給した水性塗料の量を、稲籾被膜生成量と定義することができる。
【0035】
図3(d)に示した状態が、水性塗料を介して、稲籾の表面に酸化鉄が付着した状態であるので、混合被膜生成量は、上記の酸化鉄吸油量と稲籾被膜生成量の和で求めることができる。なお、本実施形態における稲籾被膜生成量は、種子被膜生成量に該当する。
【0036】
なお、稲籾は、形状や粒度分布、或は、表面状態などにバラツキがあるため、上記の稲籾被膜生成量を測定する際は、これらのバラツキを考慮する必要がある。本実施形態では、典型的な品種、形状や粒度分布の稲籾を準備し、これを標準稲籾とし、この標準稲籾に対する稲籾被膜生成量を測定した。なお、稲籾の表面は、例えば、3日間常温で乾燥させて、乾燥させたものを使用した。
【0037】
本実施形態では、標準稲籾として、以下の稲籾を選択した。
(1)稲籾の品種 コシヒカリ(富山産)
(2)稲籾の処理 塩水選後3日間常温で乾燥させたものを使用
【0038】
次に、一例として、上記の標準稲籾に酸化鉄粉を付着させて、磁性化籾を製造した場合の水性塗料の被膜生成量について説明する。水性塗料として、アクリル樹脂含有水性塗料(日本ペイント社製ニッペシーラー)を用いた。
【0039】
図4に、上記標準稲籾に酸化鉄粉を付着させて、皮膜を形成した種子(磁性化籾)を製造した場合の被膜の生成過程を示した。図4に示すように、例えば、上記で説明した酸化鉄吸油量の水性塗料を酸化鉄粉10gに混入し、酸化鉄粉が凝集した状態を形成する(図4(a))。次に、さらに、水性塗料を添加混合することで団子状とした(図4(b))。この団子状の酸化鉄粉に、標準稲籾20gを混合し、さらに水性塗料を少しずつ滴下しながら混合する(図4(c))。少しづつ酸化鉄の団子が分離すると共に、水性塗料が酸化鉄粉の間、及び稲籾の表面にも拡がり、この拡がった水性塗料により、稲籾に酸化鉄粉が付着しはじめる。さらに水性塗料を滴下混合することにより、酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されて、この被膜が形成された単独粒の稲籾が形成される(図4(d))。以上により、稲籾被膜生成量を求めた。上記の標準稲籾20gを混合した場合の水性塗料の稲籾被膜生成量は、容積で1.4ml(重量で1.5g)であった。
以上により、アクリル樹脂含有水性塗料(日本ペイント社製ニッペシーラー)を用いた場合、標準稲籾20gに酸化鉄粉10gを混合した場合の水性塗料の混合被膜生成量を、容積で3.3ml(重量で3.6g)とすることができる。
【0040】
(3)混合工程S003
次に、稲籾と、酸化鉄粉と、水性塗料を混入し、稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させる混合工程S003について、詳細に説明する。本実施形態では、稲籾と酸化鉄粉の混合比率(重量比)を、2:1程度に固定した場合の混合工程について説明する。鉄粉を付着した籾が水に沈降するために、稲籾と酸化鉄粉の比率(重量比)を1:0.1〜1:0.75程度とすることができる。
【0041】
本実施形態では、稲籾と酸化鉄粉の混合比率として、例えば、稲籾20gと、酸化鉄粉10gとを準備する。なお、稲籾としては、上記の標準稲籾を使用した。また、上記の被膜生成量測定工程S002で決定した混合被膜生成量の水性塗料を準備する。なお、本実施形態では、水性塗料として、アクリル樹脂含有水性塗料である日本ペイント社製ニッペシーラーを使用した。
【0042】
次に、図5に示すように、上記で準備した稲籾20gと、酸化鉄粉10gと、水性塗料の混合吸油量3.3ml(ミリリットル)を一度に、攪拌しながら混入することができる。なお、図5において、図5(a)は、稲籾、酸化鉄粉、及び水性塗料とを一度に混合することにより、稲籾、水性塗料、及び酸化鉄粉が凝集した状態を示す。図5(b)は、稲籾、水性塗料、及び酸化鉄粉が凝集した状態で、さらに混合攪拌したときの状態を示す。図5(c)は、酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されて、この被膜が形成された単独粒の稲籾の状態を示す。混合時間は、約5分〜約10分程度とすることができる。稲籾と酸化鉄と水性塗料を混合した結果、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着し、稲籾同士の相互固着は観測されなかった。これにより、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着して、個々に分離した稲籾を形成することができる。また、稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させた後、酸化鉄粉を付着させた稲籾の状態を確認するために、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握り、手のひらに酸化鉄の粉末が付着するかどうかを確かめた。この結果、上記の方法で稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させたとき、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握っても、手のひらに酸化鉄の粉末が付着せず、良好な状態で、酸化鉄粉が稲籾の表面に付着していることを確認することができた。
【0043】
また、混合した水性塗料が不足している場合、まだ十分な付着力が得られない場合がある。この状態のときは、稲籾に付着した酸化鉄粉の周囲に水性塗料が十分に回り込まずに、表面が凸凹となった状態となっている。この場合、水性塗料をわずか滴下することにより、酸化鉄粉の周囲に水性塗料(アクリル樹脂)が十分に回り込み、稲籾の表面への酸化鉄粉の付着力を向上させることができる。この状態のときは、酸化鉄粉が付着した稲籾の表面の凸凹が小さくなり、光沢が確認できる。これにより、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着して、個々に分離した稲籾を形成することができる。これを磁性化籾と称する。
【0044】
また、相対的に、例えば酸化鉄粉の混合量が不足している場合、混入した水性塗料が過剰となり、水性塗料の中に稲籾、及び酸化鉄粉が混ざった泥状となる。この場合、少しづつ酸化鉄粉を混入することができる。混合状態を観察しながら、次第に稲籾同士が固着した状態から、稲籾同士の相互固着が観測されない程度になるまで、更に混合することができる。これにより、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着して、個々に分離した磁性化籾を形成することができる。
【0045】
また、図6に、混入した酸化鉄粉を稲籾の表面に付着しやすくするために、稲籾に酸化鉄粉を混入する際に、まず、稲籾の表面に水を噴霧し、その後に酸化鉄粉と稲籾を混合した場合における被膜が形成された単独粒の稲籾の形成状態を示す。なお、図6において、図6(a)は、稲籾の表面に、水を噴霧した状態を示す。図6(b)は、水が付着した稲籾に酸化鉄粉を混合し、稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させた状態を示す。図6(c)は、稲籾の表面に酸化鉄粉が付着した状態で、さらに水性塗料を添加し混合した状態を示す。図6(d)は、さらに水性塗料を少しずつ滴下しながら混合した時の状態を示す。水性塗料が拡がり、稲籾の表面に均一に酸化鉄粉が付着する。次に、図6(e)に示すように、さらに水性塗料を滴下混合することにより、酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されて、この被膜が形成された単独粒の稲籾が形成される。図6に示すように、混入した酸化鉄粉を稲籾の表面に付着しやすくするために、稲籾に酸化鉄粉を混入する前に、まず、稲籾の表面に、水を約0.4ml(0.4mg、籾量に対する比率:2%)を噴霧し、その後、酸化鉄粉と稲籾を混合することができる。この場合、稲籾の表面に酸化鉄粉が付着しやすくなるので好適である。
【0046】
また、図7に稲籾、酸化鉄粉、及び水性塗料の別の混合方法を示す。図7(a)は、稲籾に酸化鉄粉を混合し、稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させた状態を示す。図7(b)は、さらに、水性塗料を混合した状態を示す。図7(c)は、稲籾の表面に酸化鉄粉が付着した状態で、さらに水性塗料を添加し混合した状態を示す。水性塗料が拡がり、稲籾の表面に均一に酸化鉄粉が付着する。次に、図7(d)に示すように、さらに水性塗料を滴下混合することにより、酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されて、この被膜が形成された単独粒の稲籾が形成される。以下に、本混合方法について、詳細に説明する。まず、稲籾20gと、酸化鉄粉10gとを混合容器に入れて攪拌する(図7(a))。その後、混入吸油量3.3ml(ミリリットル)の水性塗料を、攪拌しながら全量混入してもよい。また、水性塗料を混入する際に、途中で表面に酸化鉄粉が付着した状態を観察しながら水性塗料を混入するようにしてもよい(図7(b))。この場合も、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着し、相互固着、或いは団子状態は見られなかった。また、混合した水性塗料が不足している場合、上記で述べたように、水性塗料をわずか滴下することにより、酸化鉄粉の周囲に水性塗料が十分に回り込み、稲籾の表面への酸化鉄粉の付着力を向上させることができる。この状態のときは、酸化鉄粉が付着した稲籾の表面の凸凹が小さくなり、光沢が確認できる。また、水性塗料の混入のタイミングを複数回に分けることも可能である。例えば、水性塗料の混入のタイミングを2度に分けて、最初に2.0mlの水性塗料を混合し、籾の表面が乾燥してくるまで攪拌する。その後、混合する水性塗料の混入吸油量の残りの分に相当する1.3mlを添加して、攪拌しながら混合することができる。その結果、酸化鉄粉が稲籾に均等に付着し、相互固着、或いは団子状態は見られなかった(図7(c))。
【0047】
この稲籾と、酸化鉄粉とを混合した後に、所定量の水性塗料を徐々に混合する方法では、稲籾に酸化鉄粉が付着する状態を観察しながら、水性塗料の量を微調整しながら、水性塗料を添加することができる。例えば、水性塗料を徐々に混入して酸化鉄粉を稲籾の表面に付着させながら、途中の工程で酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握り、手のひらに酸化鉄粉の粉末が付着しないことを確認することで、酸化鉄粉が稲籾の表面に良好な状態で付着していることを確かめることが可能である。
【0048】
この結果、酸化鉄粉が稲籾の表面に付着した状態で、個々に分離した稲籾を確実に、再現性よく形成することができる(図7(d))。また、水性塗料を過剰に投入するおそれも回避することができる。
【0049】
また、稲籾、酸化鉄粉、及び水性塗料の別の混合方法として、酸化鉄粉10gに、酸化鉄吸油量以上であって混合被膜生成量未満の水性塗料を混合したものを予め準備し、この水性塗料を混合した酸化鉄粉と所定量の稲籾(本実施形態では20gの稲籾)とを混合するようにしてもよい。この方法では、水性塗料を混合した酸化鉄粉を予め準備しておき、稲籾を播種するときに、水性塗料を混合した酸化鉄粉と、対応する所定量の稲籾とを混合して、磁性化籾を作製できるので、取り扱いが容易である。
【0050】
次に、混合工程の終点検出について、説明する。上記でも説明したとおり、稲籾、酸化鉄粉、及び水性塗料を混入して、混入後、或は混入工程の途中で、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握りしめて、手のひらに稲籾又は酸化鉄粉が付着するかどうかを確認することで、稲籾の表面に付着した酸化鉄粉の状態を確かめることができる。稲籾と、酸化鉄粉と、水性塗料を混入した結果、混入した水性塗料の量が適量の場合は、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握りしめても、手のひらに稲籾又は酸化鉄粉が付着しない。この状態で、混合工程を終了することができる。
【0051】
一方、稲籾と、酸化鉄粉と、水性塗料を混入した結果、混入した水性塗料の量が多すぎた場合は、余分の水性塗料が稲籾と稲籾とを結合し、団子状の稲籾が手のひらに付着する場合がある。この場合は、酸化鉄粉を追加し混合して、混合する酸化鉄粉の量を微調整することができる。このとき、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握り、手のひらに稲籾が付着しない程度まで、酸化鉄粉を混入し、混合工程を終了することができる。
【0052】
また、稲籾と、酸化鉄粉と、水性塗料を混入した結果、混入した水性塗料の量が少ない場合は、稲籾の表面に付着しなかった酸化鉄粉が手のひらに付着する場合がある。この場合は、水性塗料を追加して混合して、混合する水性性塗料の量を微調整することができる。このとき、酸化鉄粉が付着した稲籾を手で握り、手のひらに稲籾が付着しない程度まで、水性塗料を混入し、混合工程を終了することができる。
【0053】
なお、稲籾と、酸化鉄粉と、水性塗料とを混入する混合工程の前に、稲籾の表面に水性塗料を薄くコーテイングする被膜処理工程を追加することができる。本実施形態では、稲籾被膜生成量に相当する1.4mlの水性塗料を稲籾と攪拌混合して、稲籾の表面に、水性塗料の被膜を形成した。なお、稲籾被膜生成量に相当する1.4mlの水性塗料を稲籾と混合することで、稲籾の表面に水性塗料の薄い膜が形成されるが、膜形成に寄与しない余分な水性塗料は、混合中に稲籾から脱落する。水性塗料の被膜を稲籾の表面に形成することで、次の混合工程において、稲籾と酸化鉄粉とを混合する際に、稲籾同士がこすれて稲籾にダメージを与えることを防ぎ、稲籾を保護することができる。
【0054】
(4)乾燥工程S004
次に、混合工程後に行う乾燥工程S004について、詳細に説明する。混合工程において水性塗料を結合剤として用いて稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させた後、シートに広げて例えば、自然乾燥する。数時間以内で、酸化鉄粉が付着した磁性化籾が完成する。なお、乾燥には、乾燥機等を用いて、例えば、稲籾を保護するために40度以下の低温で強制的に乾燥させてもよい。以上の工程にて、磁性化籾が完成する。
【0055】
(5)薬剤コーテイング工程S005
なお、本実施形態では、上記の方法で磁性化籾を製造した後、磁性化籾の表面に、さらに農薬等の薬剤をコーテイングする薬剤コーテイング工程S005を含めることができる。以下に、薬剤コーテイング工程について詳細に説明する。
【0056】
まず、上記の方法で製造した磁性化籾を準備する。本実施形態では、結合剤としての水性塗料として、「アクリル系、ニッペ下塗りシーラー」を採用して、磁性化籾を製造した。次に、この磁性化籾に酸化鉄粉、農薬等の薬剤、及びポリビニルアルコール (polyvinyl alcohol) (PVA)を容器にいれて、攪拌しながら混合する。この結果、磁性化籾の表面に、薬剤を含んだPVA膜が形成される。このとき、PVAは、結合剤として機能する。なお、本実施形態では、酸化鉄粉を用いたが、これに限らず、農薬等の薬剤と反応しないものであればよく、例えば、酸化チタン、シリカ、石膏、酸化亜鉛などを用いることができる。本実施形態では、磁性化籾30gに、酸化鉄粉6g、PVA0.9g、及び薬剤を混入して、磁性化籾の表面に、薬剤を含んだPVA膜を形成した。薬剤としては、例えば、除草剤、農作物を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤などの農薬、或は農作物等の生育の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤を含むことができる。本実施形態では、PVAとして、カネヨ石鹸株式会社製のカネヨノールPVA(PVAの含有成分8%)を用いた。また、薬剤として、住友アグロ製造株式会社製の除草剤(水稲除草フロアブル剤(成分:イマゾスルフロン、ピラクロニル、ベンゾビシクロン、乳化剤、水分(90%))、及びダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤(クリンチャーEW)(成分:シハロホップブチル乳剤)の2種類を用いることができる。なお、薬剤の混入量は、各薬剤に応じて、磁性化籾に含まれる籾の量に対して決定される量を計算することができる。具体的には、住友アグロ製造株式会社製の除草剤の場合、2.5mlを添加した。また、ダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤の場合は、0.5mlを添加した。次に、常温で、例えば三日間乾燥して、磁性化籾の表面に薬剤が含まれるPVA膜が形成された薬剤コーテイング磁性化籾を形成することができる。
【0057】
上記の薬剤コーテイング磁性化籾を、水温21℃の水槽に浸漬して、表面にコーテイングしたPVAの溶出の状況、及び磁性化籾の発芽状況を観察した。住友アグロ製造株式会社製の除草剤、及びダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤において、浸漬後、3日程度で溶出し始め、5日後には、完全に溶出した。また、浸漬から、4日程度で磁性化籾からの発芽が確認できた。これにより、薬剤コーテイング磁性化籾の有効性を確認することができた。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本実施形態に記載の植物種子の製造方法を用いて、実施例1〜3、比較例に係る磁性化籾を製造した。植物種子の製造方法の実施例、及び比較例について説明する前に、本実施例で使用する酸化鉄粉、及び結合剤として用いる水性塗料の一例について、以下に説明する。
【0059】
(酸化鉄粉の選定)
本実施例で使用した酸化鉄粉は、マグネタイト(Fe3O4)である。酸化鉄粉は、粉状として、使用することができる。酸化鉄粉の平均粒径(直径)は、100μm以下のものを用いた。使用する典型的な酸化鉄粉の平均粒径(直径)は、45μm以下である。また、酸化鉄(マグネタイト、Fe3O4)として、市販の華玉社製黒顔料(型番HY−335)、及びランクス社製Bayferrox(登録商標)(型番Bayferrox318)を使用する。なお、酸化鉄(マグネタイト、Fe3O4)に混合する補助剤として、ヘマタイト(Fe2O3)、及び/又はゲータイト(Fe2O3・H2O)を色調色のために所定の比率で混合し使用してもよい。
【0060】
(結合剤の選定)
次に、結合剤として使用する水性塗料について詳細に説明する。まず、結合剤として使用できる水性塗料、或いは水性塗料に含まれる樹脂の種類を確認するために、市販の水性塗料を複数選択して、以下の試行実験を行った。磁性材料の酸化鉄と親和性があり,水が気化すれば柔軟な被膜が生じ撥水性となる素材を求めるとポリマー樹脂の水性塗料に帰結した。撥水性かつ水を蒸発させた後柔軟な樹脂となるポリマーとしてポリアクリレート系、ポリウレタン系とポリ酢酸ビニール系およびシリコーン系樹脂系との併用を採用した。
【0061】
植物種子の被膜製造方法の一例として、稲籾に酸化鉄粉を付着させた磁性化籾を製造する時に必要な結合材の物性要件として、以下の要件を挙げることができる。なお、本実施形態に係る植物種子の製造方法で製造された植物種子、或は稲籾は、例えば、磁石を利用して当該磁性化された植物種子或いは稲籾を移動し、播種機を使用して、直播栽培されることを想定している。
(1)撥水性があり、水が浸漬して膨潤することを防げること。
(2)結合剤として稲籾の表面に形成される皮膜に柔軟性があり、播種機を使用した場合でも、割れや剥がれが生じないこと。
(3)稲籾に対して密着性が良く、水に浸種した場合、少なくとも籾を水に浸種してから発芽が始まるのに必要な日数の間、剥離が無いこと。通常、籾を水に浸種してから、通常、発芽が始まるのに必要な平均日数は、温度にもよるが、7日間程度である。
(4)稲籾の催芽および発芽の成長に影響を与えないこと。
(5)稲籾の表面に付着させる酸化鉄(マグネタイト)と親和性がよいこと。
【0062】
結合剤として用いる水性塗料として、以下の市販の水性塗料を選択し、上記の結合材の物性要件を充足するかを実験により確認した。特に、撥水性があり、かつ水を蒸発させた後、ある程度変形可能な柔軟性がある樹脂を含むことが好適である。このために親油性の樹脂を含む水性塗料として、アクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料を選択した。
1.アクリル系樹脂含有水性塗料
(1)アトムサポート社製水性塗料(商品名フリーコート)
(2)日本ペイント社製水性塗料(商品名ニッペシーラー)
2.アクリル・ウレタン系樹脂含有水性塗料
(3)和信ペイント社製水性塗料(商品名水性ウレタンニス)
3.アクリル・シリコン系樹脂含有水性塗料
(4)アトムペイント社製水性塗料(商品名オールマイチーNeo)
(5)アサヒペン社製水性塗料(超多用途)
4.酢酸ビニール系樹脂含有水性塗料
(6)セメダイン社製水性塗料(木工用)
【0063】
まず、上記の水性塗料を使用して、稲籾と酸化鉄粉を混合して、磁性化籾を作製して、上記の結合材の物性要件を充足するかを確かめた。なお、酢酸ビニール樹脂含有水性塗料は、粘度が高いため約10%水で希釈してから混合した。混合時間は、約10分程度とした。混合後、シートに広げて数時間程度乾燥させることで、磁性化籾を製造した。
【0064】
上記の6種類の水性塗料を用いて作製した磁性化籾について、上記の物性要件について確認するための試験を行った。まず、上記6種類の水性塗料を結合剤として用いて作製した磁性化籾について、各25粒ずつ金網製の容器に入れ水温19ー21℃の水中に設置し、剥離状態を観察した。水に浸漬してから二日後にはいずれも催芽が始まり四日後には発芽となり、水に浸漬してから六日後には茎、根ともに約2cm以上に伸長した。水に浸漬してから12日目の根は3本ぐらい分枝し長さも5cm以上になった。また、茎は3cm以上となり双葉以上となり、稲の育成も特に問題は生じなかった。この間、すべての磁性化籾は、いずれも剥離が見られなかった。
以上の実験から、アクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料が磁性化籾の結合剤として使用できることが判明した。
【0065】
(実施例1)
次に、上記の実験にて確認したアクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料を使用して、磁性化籾を製造した実施例1について、詳細に説明する。実施例1の磁性化籾の製造方法では、酸化鉄吸油量測定工程、稲籾被膜生成量測定工程、混合工程、及び乾燥工程とを含むことができる。以下に、各工程について説明する。
【0066】
(酸化鉄吸油量測定工程)
上述したように、酸化鉄吸油量は、酸化鉄粉間の空隙が結合材(樹脂)でちょうど充填される状態となるのを観察し、酸化鉄と水性塗料が均等に詰また状態まで滴下したときの水性塗料の供給量と定義することができる。上記のアクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料の酸化鉄吸油量を測定した。酸化鉄吸油量として、は酸化鉄粉100gに対する吸油量に換算して求めた。
【0067】
表1に、各水性塗料の吸油量の測定結果を示す。なお、各水性塗料の固形分、及び水分の実測値も合わせて示している。
【0068】
【表1】

【0069】
なお、上記の測定結果において、固形分と水分は、主として実測値を示す。上記の試験した水性塗料のうち、固形分が大きいのは、樹脂以外に、乳化剤と、白色顔料(酸化チタンなど)またはシリカが混入されているものと推定される。また、固形分と水分の成分の測定方法として、試験する水性塗料を一定量だけ取り出し、一週間常温放置し、水分を蒸発させる。十分に水分を蒸発させた後に、蒸発前後の重量を秤量して、蒸発後の重量を固形分量とし、蒸発前後の重量の差分を水分量として決定した。
【0070】
表1に示すように、各水性塗料に含まれる樹脂の種類、組成比、或は固形分量によって、吸油量が異なることが分かる。従い、各水性塗料に対して、酸化鉄吸油量を測定する必要がある。
【0071】
(稲籾被膜生成量測定工程)
実施形態1に記載したとおり、水性塗料を混合して団子状となった酸化鉄粉に、所定量(20g)の稲籾を混合する。酸化鉄粉と水性塗料が混合した状態の被膜が稲籾の表面に形成されるまで、水性塗料を少しずつ滴下しながら混合する(図3(d)参照)。このとき、この被膜が形成された単独粒の稲籾が形成される。団子状の酸化鉄粉に稲籾を混合した後に供給した水性塗料の量を、稲籾被膜生成量と定義する。
【0072】
一例として、水性塗料として、アクリル樹脂含有水性塗料(日本ペイント社製ニッペシーラー)を用いた場合の稲籾被膜生成量を測定した。例えば、上記の酸化鉄吸油量の水性塗料を混合した団子状の酸化鉄粉10gに、上記の標準稲籾20gを混合した場合、水性塗料の稲籾被膜生成量は、容積で1.4ml(重量で1.5g)であった。
【0073】
以上により、上記の各水性塗料に対して測定した酸化鉄吸油量と、稲籾被膜生成量を測定し、その和を混合被膜生成量として求めることができる。アクリル樹脂含有水性塗料(日本ペイント社製ニッペシーラー)を用いた場合、標準稲籾20gに酸化鉄粉10gを混合した場合の水性塗料の混合被膜生成量は、容積で3.3ml(重量で3.6g)と求めることができる。
【0074】
(混合工程)
次に、稲籾、酸化鉄粉及び水性塗料を混合する混合工程を行った。本実施例では、一例として、上記の6種類の水性塗料のうち、アクリル樹脂含有水性塗料(ニッペホームプロダクト(株)製、商品名「ニッペ下塗りシーラー」)を使用して混合した場合について説明する。なお、他の水性塗料を使用した場合も同様の結果を得た。
【0075】
混合方法として、一度に混合した場合と、分けて混合した場合を試験した。その結果を以下に説明する。

・(混合1)一度に混合した場合:
稲籾20gと、酸化鉄粉10gと、水性塗料の混入吸油量3.3ml(ミリリットル)を一度に、攪拌しながら混入した。
(混合2)水性塗料を徐々に混合した場合
本実施例では、まず、稲籾20g、酸化鉄粉10g、及びアクリル樹脂含有水性塗料(吸油量21g/100g)2.1gを準備した。次に、この稲籾と酸化鉄粉を先に混合し、その後、さらに水性塗料を混合した。上記の吸油量は、稲籾表面への水性塗料の付着を無視した場合の吸油量であるため、実際の吸油量は、上記の吸油量よりも、わずかに大きい。上記の混合の結果、水性塗料の量が不足し、酸化鉄粉が稲籾表面に十分に付着しない場合は、稲籾に付着した酸化鉄粉の周囲に水性塗料(アクリル樹脂)が十分に回り込まずに、表面が凸凹となった状態となっている。この場合、水性塗料をわずか滴下することにより、酸化鉄粉の周囲に水性塗料(アクリル樹脂)が十分に回り込み、稲籾の表面への酸化鉄粉の付着力を向上させることができる。この状態のときは、酸化鉄粉が付着した稲籾の表面の凸凹が小さくなり、光沢が確認できる。
【0076】
なお、稲籾の表面に酸化鉄粉が付着しやすくするようにするために、稲籾に酸化鉄粉を混入する際に、まず、稲籾の表面に、水を約0.4ml(籾量に対する比率:2%)を噴霧し、その後、酸化鉄粉と稲籾を混合することができる。
【0077】
混合1、2のどちらも良好な磁性化籾が得られた。
【0078】
(乾燥工程)
上記の方法で、稲籾、酸化鉄粉及び水性塗料を混合した後、シートに広げ常温(25℃)に放置して、2〜3時間程度乾燥した。これにより、磁性化籾を得た。
【0079】
次に、上記の方法で製造した磁性化籾について、発芽・生育状態を試験するための浸種試験を行った。まず、上記のアクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料、9種類を用いて、それぞれ磁性化籾を作製した。次に、使用した水性塗料ごとに、作製した磁性化籾を25粒ずつ抽出し、金網の容器に入れ、水中に設置した。水温を24.6℃ー28℃の範囲に制御して、6日間、浸種し観察した。
【0080】
浸種試験の結果を表2、表3に示す。なお、表2には、浸種後6日間の発芽数の変化を示す。また、表3には、浸種後5日目と6日目の平均茎長(mm)と根の発根数(本)の変化を示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表2に示すように、6日目で全ての磁性化籾の発芽が終了した。よって催芽および発芽の成長に当樹脂系は何らの影響を与えないことが判明した。
【0084】
また、表3に示すように、試験した9種類の水性塗料を用いて製造した磁性化籾の全てに対して、茎長は15−18mmの範囲で成長した。
【0085】
上記の浸種試験により、上記のアクリル系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂、及び酢酸ビニール系樹脂を含む水性塗料を結合剤として用いて、磁性化籾を製造した場合、催芽および発芽の成長、並びに茎および根の成長に何らの影響を与えないことが判明した。
【0086】
また、本実施例で製造した磁性化籾は、稲籾を直接水田に蒔く直播栽培に使用される。一方、本実施例で製造した磁性化籾は、磁性を有するため、磁石を利用して吸着籾を吸着し、移植し、播種することが可能である。例えば、発芽した磁性化籾を、磁石を利用して、吸着可能かどうかを調べた。その結果、磁石に対して、本実施例で製造した磁性化籾が、十分に吸着可能であることを実験により確かめた。なお、磁石としては、吸着力が1.2kg、及び4.5kgの永久磁石を使用した。このように、浸種して発芽した芽の弱い籾であっても、本実施例で製造した磁性化籾では、磁石を利用して吸着籾を吸着し、移植し、播種することが可能である。
【0087】
(実施例2)
また、稲籾の表面に形成される被膜の強度は、水性塗料中の樹脂濃度にも関係しており、水性塗料中の樹脂濃度が小さい場合、皮膜の強度が、小さくなることが分かってきた。次に、酸化鉄粉の添加量を一定にして、水性塗料を水で希釈し、水性塗料中の樹脂の濃度が減少した場合の被膜の強度への影響を調べた。和信ペイント(株)のアクリルウレタン樹脂系のウレタンニス透明クリアーとアクリル樹脂系の水性ニス、木工用の二種類を取り上げ、下記のように樹脂量を変更して所要の水性塗料を作製した。
【0088】
【表4】

【0089】
稲籾20gと酸化鉄粉10gを混合し、稲籾の表面に酸化鉄粉が付着したところで、上記の各水性塗料を少量ずつ滴下混合しながら被膜生成量まで滴下した。上記のように固形分を約10%レベルまで希釈しても、被膜の形成は得られた。これらのサンプルをシート上に広げ常温で三日間乾燥した後、25粒ずつ恒温水槽(24−25℃)に浸漬し、被膜の剥離と発芽を観察した。
発芽数と剥離の試験結果、サンプル数:25粒
【0090】
【表5】

【0091】
以上の結果から使用したアクリルウレタン樹脂とアクリル樹脂では、固形分が小さくなると剥離が大きくなる傾向があることが分かった。これは酸化鉄粉10gに対し樹脂量が少ないため被膜が薄くなり、強度が落ちることに起因していると考えられる。
【0092】
次に、水性塗料の濃度(樹脂量)の変化と酸化鉄粉の添加量の変化による被膜の強度、或いは皮膜の剥離の関係を調べた。日本ペイント社製のニッペ下塗りシーラーを1:1と1:3に水で希釈し、稲籾20gに酸化鉄粉を10g、8g、と2gをそれぞれ添加混合し、次に上記比率で希釈した水性塗料を滴下混合して所定の磁性化籾を作製した。この時の被膜生成量は1:1の場合酸化鉄粉10gで2.7ml、8gで2.6ml、2gで1.9mlであり、1:3の場合酸化鉄粉10gで1.9ml、8gで1.6ml、2gで1.0mlであった。原液の固形分は約41%のため1:1の比率では固形分は約21%となり、1:3では約10%となる。この磁性化籾をシートに広げ常温で三日間乾燥した後、各25粒ずつ金網の容器に取り、23−25℃の水槽に浸漬して、発芽と剥離を観察し、以下のような結果が得られた。
【0093】
【表6】

【0094】
表6に示すように、いずれも固形分・酸化鉄粉の変動と関係なく発芽は良好に成長した。固形分が21%の場合、酸化鉄粉の変動数に関係なく剥離は無かった。固形分が10%と少ない場合、酸化鉄粉に対する被膜量が少なくなり、そのため被膜強度が落ちてきて10gと8gでは、9日目時点では見かけの剥離はないが、指で強く擦ると僅かに剥離が発生する。2gの場合は固形分が充分なため剥離は無かった。この結果と実施例1と同じように考察すれば固形分が10%以下の水性塗料は、酸化鉄粉の添加量を2g以下に落とせば被膜強度の維持は可能である。
【0095】
上記の実施例では、主に、酸化鉄として黒色のマグネタイトを使用したが、他の酸化鉄を用いた場合の種子の製造方法についても実験により調べた。酸化鉄粉として、例えば、赤色のヘマタイトを使用して被膜の生成条件を調べた。赤色酸化鉄粉は市販の(株)華玉社製、HY−130を使用し、水性塗料は日本ペイント社製のニッペ下塗りシーラーを使用した。赤色酸化鉄粉を10g計量し、ニッペシーラーを滴下しながら混合攪拌して吸油量を測定した。結果は6.8mlであった。さらに20gの稲籾を前記赤色酸化鉄粉の団子と混合し、単独皮膜籾になるまでニッペシーラーを滴下しながら混合し測定した。被膜生成量は約0.8mlであった。これを25℃の恒温槽に25粒浸漬して発芽を調べた。結果は5日目で全て発芽した。また剥離は生じ無かった。指で強くこすっても剥離は無かった。赤色酸化鉄粉は黒色酸化鉄粉にくらべて粒径が小さいために、吸油量が大きくまた籾に対して鉄粉の回り込みが早いために被膜生成量が小さくなると考えられる。
【0096】
(比較例)
次に、比較例として、結合剤として、水性塗料の代わりに、焼き石膏(成分1),又は、PVA(成分2)を用いて、磁性化籾を製造した場合の試験結果について、詳細に説明する。
(成分1)
稲籾:酸化鉄:焼き石膏
(成分2)
稲籾:酸化鉄:PVA
なお、稲籾、酸化鉄、焼き石膏、及びPVAとして、以下の市販の材料を用いた。
稲籾:(株)のうりん コシヒカリ(R4)
酸化鉄:(株)華玉 HYー335、Bayferrox318
焼き石膏:サンエス石膏(株)
PVA:デンカ B-24YS,B-05S
【0097】
稲籾、酸化鉄、及び焼き石膏を含む上記の成分1の製造方法について、以下に説明する。まず、籾40g酸化鉄20gを取り出し、焼き石膏を2g,4g,6gとPVA(B-24YS)2g,3gを別々に取り出し籾・酸化鉄に添加して5種類の磁性化籾を作成した。作成方法は酸化鉄と焼き石膏および酸化鉄とPVAを別々に予備混合し、次に籾に水を噴霧して湿らせてから予備混合物を加えて混合した。水を少しずつ添加しながら混合する。焼き石膏は15分ぐらいで硬化するので、手早く処理する必要があった。
【0098】
また、稲籾、酸化鉄、及びPVAを含む上記の成分2の製造方法について、以下に説明する。まず、籾50g酸化鉄15gにPVA(B−24YS:重合度約2500、B−05S:重合度約500)を酸化鉄に対し重量比で3%,4%,5%添加して成分1と同様にして磁性化籾を作成した。
【0099】
作成した磁性化籾の全てから各20粒ずつ取りだし,金網の容器に入れ水中(19+0.2℃)に浸種して、酸化鉄を含む被膜のハクリの状態を観察した。その結果、浸種二日目で催芽し、四日目ですべてのサンプルが発芽した。ハクリは浸種後いずれもすぐに始まり、六日目に水中から取り出し指触したらいずれも酸化鉄を含む被膜は簡単にハクリした。
【0100】
以上で説明したように、焼き石膏を含む成分1、及びPVAを含む成分2により製造した磁性化籾では、浸種後、水中でのハクリが生じるといった不具合が生じることが分かった。
【0101】
(実施例3)
次に、磁性化籾の表面に、さらに農薬等の薬剤をコーテイングする薬剤コーテイング工程を有する磁性化籾の製造方法の実施例について、詳細に説明する。
【0102】
親油性樹脂を含む水性塗料を結合剤として酸化鉄粉を表面にコーテイングした磁性化籾を準備する。
この磁性化籾の表面に、さらに、酸化鉄粉、水溶性樹脂、及び農薬を混合して、磁性化物の表面に農薬を含む水溶性樹脂をコーテイングし、薬剤コーテイング磁性化籾を作製することができる。この親油性樹脂層と親水性樹脂層の2重コーテイング層の構造を有する薬剤コーテイング磁性化籾を水中に浸漬すれば、まず、表層の親水性の被膜は溶解し始め、農薬も同時に溶解し始める。表面層の親水性の樹脂が完全に溶解するためには、一定の時間を有するために、一定時間農薬の濃度が稲籾の近辺に存在維持されることができるので、除草効果が期待できる。水溶性樹脂として、本実施形態では、水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)を用いることができる。
【0103】
薬剤コーテイング磁性化籾を製造するために、まず、親油性の樹脂を含む水性塗料として、「アクリル系、ニッペ下塗りシーラー」を用いて、酸化鉄粉を表面に付着させた磁性化籾を準備する。本実施例では、稲籾40g、酸化鉄粉20gを混合し、次にニッペ下塗りシーラー4.1mlを添加混合して磁性化籾60gを作製した。
次に、上記磁性化籾に酸化鉄粉、PVA樹脂、及び薬剤を各々別容器に取り、一度に混合した。混合した薬剤としては、水可溶性の農薬を用いることができる。
薬剤としては、例えば、農作物を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤、除草剤などの農薬、或は農作物等の生育の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤を含むことができる。
本実施例では、PVAとして、カネヨ石鹸株式会社製のカネヨノールPVA(PVAの含有成分8%)を用いた。また、薬剤として、住友アグロ製造株式会社製の除草剤(水稲除草フロアブル剤(成分:イマゾスルフロン、ピラクロニル、ベンゾビシクロン、乳化剤、水分(90%))、及びダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤(クリンチャーEW)(成分:シハロホップブチル乳剤)の2種類を用いた。なお、薬剤の混入量は、各薬剤に応じて、磁性化籾に含まれる籾の量に対して決定される量を計算することができる。具体的には、住友アグロ製造株式会社製の除草剤の場合、2.5mlを添加した。また、ダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤の場合は、0.5mlを添加した。次に、常温で、例えば三日間乾燥して、磁性化籾の表面に薬剤が含まれるPVA膜が形成された薬剤コーテイング磁性化籾を形成することができる。
なお、通常農薬は、単位面積当たりの使用量が制限されているため、PVA溶液の濃度、農薬混入量、溶解度、危険物取扱等を考慮する必要があるのは当然のことであり、本実施形態においても、混入する農薬の濃度等は、取り扱い等について安全な範囲で用いることは言うまでもない。
【0104】
本実施例では、住友アグロ製造株式会社製の除草剤(水稲除草フロアブル剤)を用いた場合は、磁性化籾30gに対し、酸化鉄粉12g、PVA樹脂0.9g、及び住友アグロ製造株式会社製の除草剤2.5mlを各々別容器に取り、一度に混合した
また、ダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤(クリンチャーEW)を用いた場合は、磁性化籾30gに対し、酸化鉄粉6g、PVA樹脂0.9g、及びダウ・アグロサイエンス株式会社製の除草剤(クリンチャーEW)0.5mlを各々別容器に取り、一度に混合した。その後、常温で三日間乾燥して薬剤コーテイング磁性化籾を製造した。
【0105】
上記の方法で製造した薬剤コーテイング磁性化籾を各25粒ずつ水温21.2℃の水槽に浸種して、表面にコーテイングしたPVAの溶出の状況、及び磁性化籾の発芽状況を観察した。以下に、試験結果を示す。なお、表中において、「ハガレ」とは、PVAが溶出した割合を%で示している。
【0106】
【表7】

【0107】
住友アグロ製造株式会社製の除草剤を用いた場合は、PVAと共に混入した酸化鉄粉の量が大きいため、「ハガレ」はやや大きめの固形分から泥状に変化して現れた。一方、ダウ・アグロサイエンス株式会社製除草剤(クリンチャーEW)は最初から泥状で溶解した。
上記表7を参照すると、住友アグロ製造株式会社製の除草剤、及びダウ・アグロサイエンス株式会社の除草剤において、浸漬後、3日〜4日程度で溶出し始め、5日後には、完全に溶出した。また、浸漬から、4日程度で磁性化籾からの発芽が確認できた。これにより、薬剤コーテイング磁性化籾の有効性を確認することができた。
【0108】
酸化鉄として、マグネタイトを用いることにより、磁性化籾を製造することができる。次に、上記で述べた方法により製造した磁性化籾用いた播種方法について、以下に説明する。
【0109】
(磁石を用いた播種機械による播種方法)
磁性化籾と磁力の関係を調べた。籾20g、酸化鉄粉各々、2g、4g,6g,10gを秤量し、ニッペ下塗りシーラー(アクリル系)の水性塗料を樹脂として磁性化籾を作製した。3日間常温乾燥した磁性化籾を約15センチの高さから水面に投下したところ、いずれのサンプルも浮かばず即沈下した。沈下後籾の表面に気泡が見られたがいずれも浮上しなかった。ただし磁性化籾を水面下に静かに沈めると浮いてくる。指で軽く押し気泡を抜くと沈下する。磁性化籾の乾燥状態での吸着力を調べた。試験方法は規定の吸着力のあるネオジム磁石を利用し、磁性化籾の表面より約1センチの高さの位置に磁石を設置して、吸着する籾の数を三回施行して平均値を調べた。磁石を動かす動的なものでなく静的な状態試験である。以下に示すように籾を4−6粒移動するにはかなり低い吸着力で充分だと判明した。
【0110】
【表8】

【0111】
以上では、植物種子として、稲籾を用いて、この稲籾の表面に酸化鉄粉を付着させて磁性化籾を製造する場合について説明した。しかし、これに限定されることはなく、植物種子として、稲籾の他に、胡麻、小豆、大福、落花生などの種子にも適用することができる。例えば、稲籾以外の種子として、落花生、胡麻を用いて、種子を製造し、植物種子の表面に付着させた酸化鉄粉を含む被膜の強度について調べた。落花生29g(23粒)と酸化鉄粉5gを混合した後、日本ペイント社製のニッペ下塗りシーラー1.1mlを添加混合したが皮膜がよくないので水を0.5mlほど添加して混合したところ、良好な被膜が得られた。3日間常温で乾燥した後、手で強く擦るが剥離等はなかった。
また、胡麻15gと酸化鉄粉8gを混合したあとニッペ下塗りシーラーを4ml添加混合し、3日間常温乾燥した後、手で強く擦るが被膜の剥離等は無かった。両種とも混合時には団子状にならず独立の単独粒が得られた。
【0112】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【図1】
図1
【図2】
図2
【図3】
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【図4】
図4
【図5】
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【図6】
図6
【図7】
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