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【発明の名称】グリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法 【出願人】 【識別番号】515247967 【氏名又は名称】勝田 文和 【住所又は居所】栃木県塩谷郡高根沢町亀梨413−2 【代理人】 【識別番号】100160657 【弁理士】 【氏名又は名称】上吉原 宏 【発明者】 【氏名】勝田 文和 【住所又は居所】栃木県塩谷郡高根沢町亀梨413−2 【要約】 【課題】 本願発明は、構造の単純化及び耐力壁の筋交いを減らすことによって断熱材の充填領域を確保可能とする木造軸組工法における課題を解決する設計法。 【解決手段】 本願発明は、木造軸組工法において、横架材で組まれた格子組に強化板を固定する水平構面を上下に備え、前記上下の水平構面間を四隅で支持する菅柱と、前記上下の水平構面と柱との関係において、許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域を一つのグリッドとし、係るグリッドを複数組み合わせることによって建物全体の設計を行うグリッド設計法とした。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 木造軸組工法による建築物の製造方法において 二層以上の水平構面を備え、 該水平構面は、直交する横架材で組まれた格子組と水平構面用強化板とが嵌合によって固定されて成り、 該嵌合は前記水平構面用強化板の縁部に段差部を有し、 該段差部の垂直面と断面形状が矩形である前記横架材の側面とが当接して嵌め合い、 前記水平構面と此れを四隅で支持する菅柱との関係において、 許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域を一つのグリッドとし、 係るグリッドの組み合わせによる設計手段を主として建築物全体を製造する ことを特徴とするグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法。 【請求項2】 木造軸組工法による建築物の製造方法において 二層以上の水平構面を備え、 該水平構面は、直交する横架材で組まれた格子組と水平構面用強化板とが嵌合によって固定されて成り、 該嵌合は前記水平構面用強化板の縁部に段差部を有し、 該段差部の垂直面と断面形状が矩形である前記横架材の側面とが当接して嵌め合い、 前記水平構面と此れを四隅で支持する菅柱との関係において、 許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域であって、 平面視において正方である立体領域を一つのグリッドとし、 係るグリッドの組み合わせによる設計手段を主として建築物全体を製造する ことを特徴とするグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法。 【請求項3】 前記水平構面が、横架材である大引き、または小梁及び孫梁を格子状に組んだ格子組の正方開口部に、水平構面用強化板を嵌合及び釘着によって固定される水平構面であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法。 【請求項4】 前記耐力壁を構成する複数の菅柱に耐力を有する垂直構面用強化板を釘着することを特徴とする前記請求項1から請求項3の何れかに記載のグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、木造建築物に関し、詳しくは、木造軸組工法の改善に資する技術であり、上下の水平構面、四隅の菅柱及び耐力壁からなる立体領域毎にグリッドとすることにより構造を単純化し、また各階床は水平構面とすることにより耐震性を向上し、且つ耐力壁の筋交い等を減らし該耐力壁内に断熱材を均一に充填することを可能とするグリッド設計法に関する。 【背景技術】 【0002】 木造建築物の一般的な工法として、在来軸組工法がある。在来軸組工法とは、主に柱や梁といった軸組で支える工法である。枠組壁工法と比較し耐力を持たせる壁が少ないため、設計の自由度が比較的高い工法である。ただし耐震性を確保するために、筋交い、火打ち梁、火打ち土台などの斜め部材を多用する必要がある。 【0003】 軸組工法は、設計の自由度が高い反面、木造建築物の形状によっては、様々な寸法の部材が用いられ、それらが複雑に組み立てられることもある。部材の種類が増えることで、建て方も複雑化し、作業工程が増え、結果的に工期が長くなることとなっていた。 【0004】 また、従来の工法では、耐震性の向上のために壁に筋交いを多用する方向であり、壁への断熱材の充填が均一に出来ない部分が増え、十分な断熱効果が得られないことも多い。また、床、天井への断熱材の充填が十分でないため、十分な断熱効果が得られなかった。 【0005】 また、小屋や屋根の施工時において、小屋梁や母屋の上しか作業スペースが無く、作業員は危険作業を強いられ、足の踏み外しによる転落事故の可能性が高く、安全且つ効率的な作業が極めて困難な状況であった。そのため、構造を単純化しつつ、耐震性及び断熱性を向上させ、屋根の施工中の安全性を確保する工法が求められていた。 【0006】 木造住宅の天井板材を木造住宅の強度部材として活用した木造住宅の耐力天井壁構造(特許文献1参照)が提案され、公知技術となっている。より詳しくは、柱、土台、梁または胴差し等により枠組された躯体において、小屋梁または桁により形成された開口部に、前記開口部閉塞用の天井板材の周縁と所定幅で重なり合うとともに、前記天井板材の板厚に略等しい深さの切込みを形成し、前記切込みに、前記天井板材の周縁を嵌合させ、クギ等の固定手段により前記天井板材を、前記開口部を形成する大引きまたは小梁に固定したことを特徴とする木造住宅の耐力天井壁構造である。 天井の強度を高めることは記載されているが、建て方の手順の変更による屋根葺き作業性の向上や、建築の構造の単純化についての記載はされておらず、前記問題の解決には至っていない。 【0007】 また、天井構造の気密性、施工性、断熱性、耐震強度を向上させる技術(特許文献2参照)が提案され、公知技術となっている。より詳しくは、住宅の梁間あるいは桁間に横架された小屋梁間にパネルが介装された天井構造において、前記パネルは、面材と発泡断熱材からなり、前記面材の片面中央部に、面材の外周部分を残して、発泡断熱材を一体接合させたものであり、前記面材を小屋裏側から小屋梁に、又は室内側から小屋梁に当接させ、これを固定することにより、パネルが施工されてなる構造である。 天井の断熱性の向上については記載されているが、建築の構造の単純化及び耐震性の向上についての記載はされておらず、前記問題の解決には至っていない。 【0008】 また、天井を天井パネルとしてユニット化するとともに、この天井パネルを上方から吊ることなく天井形成を行うことが可能となる、天井施工方法および天井パネルを提供する技術(特許文献3参照)が提案され、公知技術となっている。より詳しくは、ランナーおよびスタッドに石膏ボード合板を取りつけることで天井パネルを構成するとともに、この天井パネルに少なくとも一つの作業穴を形成しておく。この天井パネルを、部屋を囲む壁パネルの上方から吊り込んで、該壁パネルに固定する。そして、前記天井パネルの上方において、床パネルを壁パネルの上端に設置するとともに、互いに隣接する床パネルどうしを、前記作業穴から挿入される床パネル緊結ボルトによって連結する。最後に、前記作業穴を補助石膏ボード合板によって塞ぐ構造である。 天井部分を強度アップすることは記載されているが、断熱性の向上については記載されておらず、前記問題の解決には至っていない。 【0009】 本発明者は、構造の単純化及び耐力壁の筋交いを減らすことによる断熱材の充填領域の確保という、従来問題となって木造軸組工法におけるこれらの課題を解決すべく、水平構面に着目し、該水平構面、柱及び耐力壁から成る特定の立体領域を一つのグリッドとして、係るグリッドを複数組み合わせ、建物全体を設計することにより、前記課題を解決できる本願発明に係る「グリッド設計法」の完成に至ったものである。さらに、係るグリッド設計法は、前記課題を解決するのみならず、屋根工事における作業員の安全を確保できると共に、剛性及び重量バランスにも優れた木造建築物を提供できる設計法である。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】特開平10−131369 【特許文献2】特開平9−111944 【特許文献3】特開2003−96965 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明は、在来軸組工法において、筋交いにより耐震性を確保しようとした場合に、断熱性が十分得られないという問題点に鑑み、上下の水平構面と、前記上下の水平構面間を四隅で支持する菅柱と、これらを許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域を一つのグリッドとし、筋交いを削減することによって解決する手段を提供するものである。 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明は、木造軸組工法による建築物の製造方法において二層以上の水平構面を備え、該水平構面は、直交する横架材で組まれた格子組と水平構面用強化板とが嵌合によって固定されて成り、該嵌合は前記水平構面用強化板の縁部に段差部を有し、該段差部の垂直面と断面形状が矩形である前記横架材の側面とが当接して嵌め合い、前記水平構面と此れを四隅で支持する菅柱との関係において、許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域を一つのグリッドとし、係るグリッドの組み合わせによる設計手段を主として建築物全体を製造することを特徴とするグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法とした。 【0013】 また本発明は、木造軸組工法による建築物の製造方法において二層以上の水平構面を備え、該水平構面は、直交する横架材で組まれた格子組と水平構面用強化板とが嵌合によって固定されて成り、該嵌合は前記水平構面用強化板の縁部に段差部を有し、該段差部の垂直面と断面形状が矩形である前記横架材の側面とが当接して嵌め合い、前記水平構面と此れを四隅で支持する菅柱との関係において、許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域であって、平面視において正方である立体領域を一つのグリッドとし、係るグリッドの組み合わせによる設計手段を主として建築物全体を製造することを特徴とするグリッド設計法に基づく木造建築物の製造方法とすることもできる。 【0014】 また本発明は、前記水平構面が、横架材である大引き、または小梁及び孫梁を格子状に組んだ格子組の正方開口部に、水平構面用強化板を嵌合及び釘着によって固定される手段を採用することもできる。 【0015】 また本発明は、前記耐力壁を構成する複数の菅柱に耐力を有する垂直構面用強化板を釘着する手段を採用することもできる。 【0016】 また本発明は、前記水平構面間に配置される柱の太さ及び長さ寸法は均一であることを手段とする。 【0017】 また本発明は、前記グリッドに使用される部材は、プレカットされていることを手段とする。 【発明の効果】 【0018】 本発明に係るグリッド設計法によれば、構造の単純化が可能であり、且つ、断熱効果の高い壁、床、及び天井とすることが可能となり、作業工期を短縮し、品質を向上させるものである。 【図面の簡単な説明】 【0019】 【図1】本発明に係るグリッド設計法の実施例の断面図である。 【図2】本発明に係るグリッド設計法の実施例の菅柱及び格子組を説明する斜視図である。 【図3】本発明に係るグリッド設計法の水平構面用強化板の設置の方法を示す斜視図及び断面詳細図である。 【図4】本発明に係るグリッド設計法での住宅設計の例を示す平面図及び立面図である。 【図5】本発明に係るグリッド設計法での実施例の床及び天井を示す断面詳細図である。 【図6】本発明に係るグリッド設計法での実施例の耐力壁を示す平面詳細図である。 【発明を実施するための形態】 【0020】 本発明であるグリッド設計法は、木造軸組工法において、上下の水平構面と、前記上下の水平構面間を四隅で支持する菅柱と、これらを許容応力度計算から求められる耐力壁を配置した立体領域を一つのグリッドとし、係るグリッドを複数組み合わせることによって建物全体の設計を行い、前記耐力壁は、複数の菅柱に垂直構面用強化板を釘着し、前記水平構面は、大引き、または小梁及び孫梁で組まれた格子組に水平構面用強化板を嵌合及び釘着して固定する水平構面でることを最大の特徴とする。以下、実施例を図面に基づいて説明する。 なお、本実施例で示されるグリッド設計法の全体形状及び各部の形状は、下記に述べる実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、即ち、同一の作用効果を発揮できる形状及び寸法の範囲内で変更することができるものである。 (実施例1) 【0021】 図1から図4及び図6に従って、本発明を説明する。図1は、本発明に係るグリッド設計法の実施例の断面図である。図2は、本発明に係るグリッド設計法の実施例の菅柱及び大引き、または小梁及び孫梁で組まれた格子組を説明する斜視図である。図3は、本発明に係るグリッド設計法の水平構面用強化板の設置の方法を示す斜視図及び断面詳細図である。図4は、本発明に係るグリッド設計法での住宅設計の例を示す平面図及び立面図である。図6は、本発明に係るグリッド設計法での実施例の耐力壁を示す平面詳細図である。 【0022】 図2(a)は該当するグリッドの菅柱及び大引き、または小梁及び孫梁で組まれた格子組を説明する斜視図である。図(b)は該グリッドに直上階を重ねた状態の菅柱及び大引き、または小梁及び孫梁を説明する斜視図である。図3(a)は、本発明の水平構面用強化板の設置の方法を示す斜視図である。図3(b)は、大引き、または小梁及び孫梁と水平構面用強化板の構成を示す断面詳細図である。図4(a)は、住宅の1階平面図、図4(b)は、2階平面図である。図4(c)は、住宅の桁行き方向の立面図、図4(d)は、住宅の妻側の立面図である。図6(a)は、菅柱の間に筋交いを2本入れた耐力壁を示す平面詳細図である。図6(b)は、菅柱の間に筋交いを1本入れた耐力壁を示す平面詳細図である。 【0023】 まず、グリッド設計法について説明する。グリッド設計法とは、木造の軸組工法における問題点を解決する設計法である。問題点としては、第1に、耐震のための構造計算が筋交いの数を算出するような略式の計算であり、強度確保の根拠が不明確であり、強度過剰な構造となってしまうことがあった。第2に、設計の柔軟性が高い分、部材の共通化が計りにくいため、プレカットにおける労力が重く、また現場で部材の加工を行うこともあり、工期が長引き、コストのアップにつながっていた。第3に、耐震性能を向上させるために壁に入れる筋交いの数を増やす傾向にあり、そのため、断熱材の充填容積が下がってしまい、断熱性能が低下する方向となっていた。 【0024】 在来軸組工法のこれらの問題点を解決するために、グリッド設計法では、第1に、グリッドで、構造計算を管理する。第2に、各階床の構成を統一し水平構面とする。第3に、使用する部材の寸法を可能な限り均一化する。 【0025】 グリッドで、構造計算を管理する内容について説明する。単位領域としては、8畳や4.5畳などの正方形のグリッドが計算上好適であるが、6畳や10畳などの長方形でも構わない。なお、単位領域が正方形であれば土台及び大引き、または大梁及び小梁に共通の長さの部材を使用できるため、部材の種類が減ることとなり作業工程を簡略化し、且つ剛性の中心と重さの中心を合わせ、構造バランスを安定させることが可能となる。 【0026】 例えば、8畳をグリッドとする場合、該グリッドを有する木造建築物は該グリッドを含む計画とする。8畳のグリッドとは、単なる観念上のグリッドではなく、実際に8畳の空間として設計する。8畳のグリッドについては、許容応力度計算により上下の水平構面の剛性から、必要な耐力壁の配置、及び構造バランスを検討する。さらに、該木造建築物における他のグリッドについても個別のグリッドごとに許容応力度計算により水平構面、必要な耐力壁の配置、及び構造バランスを検討する。最後に各グリッドを組み合わせ、全体として最適な木造建築物とする。 【0027】 水平構面の構成の統一、使用する部材の寸法の均一化、については後述する。 【0028】 グリッド1の構成を説明する。グリッド1は、主に、水平構面2と菅柱8とから構成されている。本設計法による2階建ての場合は、基礎10の上部に、1階床として水平構面2を配置し、その上部に、太さ寸法の統一された菅柱8を立てる。該菅柱上部に2階床として水平構面2を配置し、該水平構面2上部に太さ寸法の統一された菅柱8を立てる。なお、建物の出隅に配される1階の菅柱8と2階菅柱は引き寄せ金物により接合し、通し柱は使用しない。2階菅柱8上部に、小屋床として水平構面2を配置する。 【0029】 2階床及び小屋床を構成する大梁5及び小梁7の成は、各グリッドとも建物全体における最大のグリッドに使用する寸法に合わせる。また、本来床が存在しない小屋下部に水平構面2を設置する。係る水平構面2の重量は在来軸組工法の床に比べ増加することとなるが、建物全体の剛性の中心と重さの中心を合わせることによって構造バランスを取ることが出来、該水平構面2の重量が増えることによる多少の不都合を補う強化とすることが可能となる。 【0030】 また、2階床及び小屋床を構成する大梁5及び小梁7の成は、各グリッドとも建物全体における最大のグリッドに使用する寸法に合わせるため、各階菅柱8の長さ寸法を同一とすることが可能となる。当階で使用する菅柱8は全て太さ及び長さ寸法共に同一となるため、該菅柱8は場所決めの必要が無く、当階いずれの場所でも使用することが可能となる。 【0031】 図1は、グリッド設計法で設計された2階建て住宅の模式的な断面図である。基礎10の上部に1階床が配置されており、この部分が水平構面2となっている。1階床の水平構面2は、土台4及び大引き15といった横架材、及び水平構面用強化板3から構成されている。水平構面用強化板3は、該横架材に対して多数の釘6によって、強固に固定されている。水平構面用強化板3の形態については、後述する。 【0032】 在来軸組工法では、土台4及び大引き15の上に根太及び床下地が配置されている。土台4及び大引き15と根太及び床下地は、釘6によって床下地が外れない程度に固定されている。そのため、床は、水平構面2を構成していない。よって、土台の強度向上のため、火打ち土台などの斜め部材で補強を行う必要がある。 【0033】 1階の水平構面2の上部に、太さ寸法の統一された菅柱8が配置されている。壁に耐力を持たせるために、筋交い9が菅柱8に対して斜めに配置され、該菅柱8に垂直構面用強化板14が設置される。筋交い9の数は、在来軸組工法よりも少なくできる。垂直構面用強化板14は、菅柱8に対して多数の釘6によって、強固に固定されている。 【0034】 筋交い9の数を減らすことによって、断熱効果を向上させることが出来る。本実施例の耐力壁において、2本の菅柱8の間に筋交い9がたすき掛けに2本設置された場合、図6(a)のように、該菅柱8の間に該筋交い9が、紙面上、上下に配置される。該菅柱8の外気側には外壁が設置され、該菅柱8の部屋側には垂直構面用強化板14が設置される。筋交い9がたすき掛けに2本入る菅柱8の間に断熱材13を入れようとすると、該筋交い9の厚さが問題となる。例えば柱8の寸法が105mm、筋交い9の寸法が45mmの場合、断熱材13の厚さは、15mm以下のものしか使用できなくなる。 【0035】 それに対して、図6(b)のように、筋交い9が1本の場合は、断熱材13の厚さは60mmまで厚くできる。このように、筋交い9を減らすことで、断熱材13の充填領域を確保することができるため、壁の断熱効果を大きく向上させることが出来る。 【0036】 1階の菅柱8の上部には、2階の床が配置されており、この部分が水平構面2となっている。この部分は、1階の天井であると同時に2階の床である。水平構面2は、大梁5、小梁7、孫梁16といった横架材、及び水平構面用強化板3から構成されている。水平構面用強化板3は、該横架材に対して多数の釘6によって、強固に固定されている。 【0037】 在来軸組工法では、大梁と小梁の上に床下地が配置されている。大梁及び小梁と床下地は、釘6によって、床下地が外れない程度に固定されている。そのため、床は、水平構面2を構成していない。よって、梁の強度アップのため、火打ち梁などの斜め部材で補強を行う必要がある。 【0038】 2階の菅柱8及び筋交い9の構造は、1階の菅柱8及び筋交い9の構造と同様である。2階の菅柱8の上部に、小屋床が配置され、この部分が水平構面2となっている。この部分は、2階の天井であると共に小屋の床である。水平構面2の構成は、2階の床の構成と同じく、大梁5、小梁7、孫梁16といった横架材及び水平構面用強化板3から構成され、該水平構面用強化板3は、該横架材に対して多数の釘6によって、強固に固定されている。 【0039】 在来軸組工法では、小屋梁から2階の天井としての板材が吊るされている。板材は、単なる仕切りであり、鉛直荷重を支えられない。また、小屋梁と天井は、釘6によって、天井が落ちない程度に固定されている。そのため、天井は水平構面2を構成していない。よって、梁の強度アップのため、火打ち梁などの斜め部材で補強を行う必要がある。 【0040】 小屋床上部に小屋を組む。在来軸組工法において一般的に小屋を組む場合、小屋下部に床が存在しないため作業員は小屋梁の上で危険な作業を強いられる。該小屋床上部に小屋を組む場合、足の踏み外しによる転落事故、若しくは工具や資材などを落とし直下階で作業している作業員に怪我を負わせる事故等を防ぐことが可能となる。また、該小屋床上で小屋を地組することが可能となり安全且つ効率的に作業することができる。 【0041】 小屋組上部には、野地板11が配置されている。野地板11の上に、瓦など屋根の仕上げ材が配置される。在来軸組工法において一般的に屋根を施工する場合、作業者は、小屋や母屋の上で危険な作業を強いられる。該小屋組上部に屋根を施工する場合、小屋下部に床が存在するため足の踏み外しによる転落事故、若しくは工具や屋根材などを落とし直下階で作業している作業員にけがを負わせる事故等を防ぐことが可能となる。また、該小屋床上で野地板11や屋根材を仮置きすることが可能となり安全且つ効率的に作業することができる。 【0042】 図2の斜視図を用いて、柱、梁などの構成を説明する。水平構面用強化板3及び筋交い9等は、説明のため、除いてある。1階床、2階床、小屋床は、ほぼ同様の構成となっている。土台4又は大梁5が水平構面2の周囲を囲み、内側に複数の大引き15又は小梁7及び孫梁16を直交させて格子組を構成している。 【0043】 各水平構面における格子組された横架材の成は可能な限り均一化されている。土台4及び大引き15の寸法は統一され、また大梁5及び小梁7の成は建物全体における最大のグリッドに使用する寸法に統一されており、プレカット(事前に加工された)部材を使用する。孫梁16については最少の成の部材を使用することが出来る。また、大梁5及び小梁7の成は建物全体における最大の単位領域に使用する寸法に統一されるため、菅柱8の長さ寸法を統一することが可能となる。該菅柱8は、幅及び長さ寸法が統一されたプレカット部材を使用する。同一寸法の部材を多用することによって、構造を単純化し工期を大幅に短縮すると共に、建物全体の剛性の中心と重さの中心が合う構造バランスの取れた建物とすることが可能となる。 【0044】 図4に沿って、グリッドの構成について説明する。この実施例では、グリッドを4.5畳、7.5畳及び8畳としている。図4(a)は、1階平面図であり、紙面上で右上が玄関、中央部分上部は吹き抜けである。1階においてグリッド1に出来る範囲は、G1、G2、G3、G4、G5又はG6の6箇所である。そこで、G1からG6について独立したグリッドとして許容応力度計算し水平構面2に使用する横架材の成及び耐力壁の配置を検討後、各グリッドを最終的に組み合わせ設計する。 【0045】 図4(b)は、2階平面図であり、中央部分は吹き抜けである。2階においてグリッド1に出来る範囲は、G7、G8、G9、G10又はG11の5箇所である。そこで、G7からG11について独立したグリッドとして許容応力度計算し水平構面2に使用する横架材の成及び耐力壁の配置を検討後、各グリッドを最終的に組み合わせ設計する。 【0046】 図4(c)及び図4(d)は、立面図であり、グリッド1の位置を示している。G3、G4、G5及びG6は1階におけるグリッド1であり、G9、G10及びG11は2階におけるグリッド1である。この実施例は、建物全体がグリッドで構成されるので、グリッド設計法の効果を最大限発揮することが可能である。 【0047】 図3に沿って、水平構面2の構成の詳細を説明する。図3(a)は水平構面2の分解模式図である。水平構面2は、横架材及び水平構面用強化板3とからなる。1階の横架材は、土台4に対し大引き15を複数本内側に直交するように格子組を構成し、また2以上の階における横架材は、大梁5に対し小梁7を複数本内側に直交させ、さらに該小梁7対し孫梁16を直交するように格子組を構成する。該格子組の上部開口部毎に該開口部を覆うように水平構面用強化板3を釘着する。 【0048】 水平構面用強化板3は、図3(b)に示すように、周縁が段差部301を有し、前記横架材の側面701に当接することで、開口部を密着して塞ぎ、上から釘6によって固定する。釘6は、1辺あたり10本前後打ち込まれる。これによって、該横架材及び該水平構面用強化板3は、水平構面2を構成することになる。また、水平構面用強化板3は、周縁下部301が前記横架材の側面701に当接するため、従来使用される床下地用合板よりも厚く出来、水平構面2の強度を確保することが可能となる。 【0049】 また、水平構面用強化板3の周縁が段差部301を有さない場合、地震などでの水平構面2のゆがみを釘6による固定のみで防ぐことになり、十分な強度が保てない。しかし、周縁が段差部301を有し、前記横架材の側面701と常に当接している場合においては、水平構面用強化板3でゆがみを防ぐ効果を出すことが出来、水平構面2の強度を確保することが可能となる。 【0050】 また、段差部の別構成として、前記横架材が段差部を有することも考えられるが、釘6を打つ場所が狭くなり、水平構面用強化板3と前記横架材を十分固定することが出来ない。また、水平構面用強化板3の強度を増すために該水平構面用強化板3の厚さを増す場合、前記横架材の段差部が細長くなり、該横架材の断面欠損が増え強度不足となってしまう。そのため、水平構面用強化板3が段差部301を有することが好適である。 【0051】 上記のように、本発明によって、以下の効果を得ることが出来る。 係る木造建築物はグリッドで構成されるため、各グリッドごとに許容応力度計算を行い、耐力壁を、バランスよく配置することが出来るため、能率的に耐震等級3を得ることができる。また、従来の略式壁量計算よりも構造的な精度を向上させることで、耐震性の向上を図ることが出来る。 【0052】 また、1階床の水平構面を統一し、2階床及び小屋床の水平構面を統一することで、構造が単純化され、火打ち土台及び火打ち梁を減らすことが出来、設計及び施工の効率を上げることが出来る。さらに、使用する部材の寸法を可能な限り均一化することにより、プレカットの省力化及び現場作業の効率化を達成し、工期短縮とコストの削減を図ることが出来、さらに、建物全体の剛性の中心と重さの中心の合う構造バランスの取れた木造建築物とすることが可能となる。 【0053】 また、床を水平構面とすることにより、耐力壁の数を減らすことが出来、間仕切り壁で部屋のレイアウトなどの空間の可変性を向上させることができる。 【0054】 また、耐力壁の筋交いの数も減らすことが出来るので、耐力壁内の断熱材の充填をより均一化することにより、断熱性の向上を図ることが出来る。 【0055】 また、大梁及び小梁の成の寸法が全て統一されるため菅柱の長さ寸法が全て統一される。太さ及び長さ寸法の統一された菅柱を使用可能なため、プレカットの大幅な省力化を実現し、さらに作業現場においては菅柱の場所決めの必要が無くなり作業効率を大幅に上げることが可能となる。 【0056】 また、小屋床を水平構面とすることで、小屋を組む作業や屋根を葺く工程において小屋床の上で作業をすることが可能となる。在来軸組工法において一般的に小屋を組む作業や屋根を葺く工程において、小屋下部に床が存在しないため作業員は小屋梁や母屋の上で危険な作業を強いられるのに対し、小屋床が存在する場合、該小屋床上で安全且つ効率的に作業することができる。 【0057】 また、小屋床が水平構面であることから、小屋裏空間を小屋裏収納等として有効利用することも容易である。 (実施例2) 【0058】 他の実施例について図5を用いて説明する。実施例1と同様の部分は省略する。 図5は、本発明に係るグリッド設計法での他の実施例を示す断面詳細図である。図5(a)は、水平構面2の下部に板材12を配置し、断熱材13を中空に配置した図である。図5(b)は、水平構面2の下部に水平構面用強化板3を配置し、断熱材13を中空に配置した図である。 【0059】 水平構面2内への断熱材13の均一に充填可能な構成を説明する。 図5(a)に示すように、水平構面2の底面に板材12を配置することによって、水平構面2は、板材12と水平構面用強化板3で挟まれた中空構造となる。そこで、断熱材13を水平構面2の内部に充填することで、断熱効果を向上させることが出来る。水平構面2の下部に設置される板材12は、前記断熱材13が落下しない程度に釘6で固定される。 【0060】 また、図5(b)に示すように、大梁、小梁及び孫梁といった横架材の成を統一寸法とした場合、水平構面2の底面にも水平構面用強化板3を配置することが可能となる。係る構成を採用した場合、水平構面2は、水平構面用強化板3同士で挟まれた中空構造となるため、係る中空構造部に断熱材13を充填することで断熱効果を向上させることが出来る。また、水平構面2の下部も水平構面用強化板3で固定されることから、水平構面2の強度が向上し、使用する横架材の成を小さく出来、該水平構面の厚さを薄くすることが可能となる。 【0061】 本発明によって、下記の効果を得ることが出来る。 1階床、2階床、小屋床に、隙間無く断熱材を充填することが可能となり、1階床下から小屋裏まで、断熱性が向上し、省エネの効果を高めることが出来る。 【産業上の利用可能性】 【0062】 本発明に係るグリッド設計法は、木造建築物の軸組工法についての産業上の利用可能性は大きいと解する。 【符号の説明】 【0063】 1 グリッド 2 水平構面 3 水平構面用強化板 4 土台 5 大梁 6 釘 7 小梁 8 菅柱 9 筋交 10 基礎 11 野地板 12 板材 13 断熱材 14 垂直構面用強化板 15 大引き 16 孫梁 G グリッド単位 301 段差部 701 側面 |
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【図1】 |
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【図2】 |
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【図3】 |
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【図4】 |
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【図5】 |
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【図6】 |
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