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【発明の名称】建築物 【特許権者】 【識別番号】512057415 【氏名又は名称】榎田 寛治 【住所又は居所】神奈川県横浜市青葉区奈良町2913−7−523 【代理人】 【識別番号】100094053 【弁理士】 【氏名又は名称】佐藤 隆久 【発明者】 【氏名】榎田 寛治 【住所又は居所】神奈川県横浜市青葉区奈良町2913−7−523 【特許請求の範囲】 【請求項1】 水平なx方向に面する耐震壁、及び、水平でx方向に直交するy方向に面する耐震壁を含む複数の耐震壁を1階部分に有する2階以上の建築物であって、 前記複数の耐震壁は、前記1階部分の最も外側に位置する壁を構成する複数の外側耐震壁を含んでおり、 前記複数の外側耐震壁は、水平方向において離散的に配置されることにより前記1階部分の外側に開放された複数の開口を構成しており、 前記複数の開口のいずれかを通り、x方向へ1階部分を直線状に貫通する隙間、及び、前記複数の開口の他のいずれかを通り、y方向へ1階部分を直線状に貫通する隙間が形成されている 建築物。 【請求項2】 x方向に面する前記耐震壁とy方向に面する前記耐震壁とが互いに連結されて構成された平面視においてL字のL字壁が複数設けられ、 前記複数のL字壁のいずれかは、前記複数の外側耐震壁のいずれかを含んでおり、 前記複数のL字壁は、平面視において、該建築物の重心を囲むように凹側の面を前記重心に向けてx方向及びy方向に対して斜めの4方に配置され、前記凹側の面間にx方向への前記隙間及びy方向への前記隙間を構成している 請求項1に記載の建築物。 【請求項3】 前記複数のL字壁は、x方向に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのx方向外側に位置するL字壁の凹側の面との間にy方向に貫通する前記隙間を更に構成している 請求項2に記載の建築物。 【請求項4】 前記複数のL字壁は、y方向に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのy方向外側に位置するL字壁の凹側の面との間にx方向に貫通する前記隙間を更に構成している 請求項3に記載の建築物。 【請求項5】 前記複数のL字壁は、その壁長さの合計の8割以上においてx方向において線対称且つy方向において線対称に配置されている 請求項2〜4のいずれか1項に記載の建築物。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、津波対策が施された、家屋やビル等の建築物に関する。 【背景技術】 【0002】 耐震壁を有する建築物が知られている(例えば特許文献1)。耐震壁(耐力壁)は、地震によって生じる力に耐えることができるように構成された壁であり、後述するように、建築基準法等によって、その厚さや長さ等が規定されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2001−207530号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 近年発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)においては、津波によって多くの建築物が流され、これに伴って多くの人命及び財産が失われた。現在、建築物を沿岸部から高台へ移転することによって津波の被害を免れる方策が検討されている。しかし、この方策では、沿岸部の不動産の有効活用がなされなくなる不利益が生じる。 【0005】 本発明の目的は、津波に流されることを抑制できる建築物を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の一態様に係る建築物は、水平なx方向に面する耐震壁、及び、水平でx方向に直交するy方向に面する耐震壁を1階部分に有する2階以上の建築物であって、x方向へ1階部分を直線状に貫通する隙間、及び、y方向へ1階部分を直線状に貫通する隙間が形成されている。 【0007】 好適には、x方向に面する前記耐震壁とy方向に面する前記耐震壁とが互いに連結されて構成された平面視においてL字のL字壁が複数設けられ、前記複数のL字壁は、平面視において、該建築物の重心を囲むように凹側の面を前記重心に向けてx方向及びy方向に対して斜めの4方に配置され、前記凹側の面間にx方向への前記隙間及びy方向への前記隙間を構成している。 【0008】 好適には、前記複数のL字壁は、x方向に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのx方向外側に位置するL字壁の凹側の面との間にy方向に貫通する前記隙間を更に構成している。 【0009】 好適には、前記複数のL字壁は、y方向に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのy方向外側に位置するL字壁の凹側の面との間にx方向に貫通する前記隙間を更に構成している。 【0010】 好適には、前記複数のL字壁は、その壁長さの合計の8割以上においてx方向において線対称且つy方向において線対称に配置されている。 【発明の効果】 【0011】 上記の構成によれば、建築物が津波に流されることを抑制できる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物の外観を示す斜視図。 【図2】図1の建築物の1階部分の平面図。 【図3】防波堤との組み合わせにおける図1の建築物の有用性を説明する図。 【図4】本発明の第2の実施形態に係る建築物の1階部分の平面図。 【発明を実施するための形態】 【0013】 (第1の実施形態) 図1は、本発明の実施形態に係る建築物1の外観を模式的に示す斜視図である。なお、建築物1の説明に際しては、直交座標系xyzを参照することがある。x方向は、水平方向であり、y方向は、x方向に直交する水平方向であり、z方向は鉛直方向である。x方向及びy方向の一方は、津波の進行方向となる蓋然性が高い方向(一般には海岸に直交する方向)と概ね一致するように設定されている。 【0014】 建築物1は、2階以上の階数を有する建築物として構成されている。建築物1の構造、用途、階数、形状及び大きさは、適宜に設定されてよい。図1で例示している建築物1においては、例えば、構造は鉄筋コンクリート構造であり、用途はオフィスであり、階数は5階であり、形状は概ね直方体状であり、大きさは100〜200m(x方向)×50〜100m(y方向)×15〜25m(z方向)である。 【0015】 建築物1の1階部分F1は、複数の柱3と、複数の耐震壁5とを有している。ただし、耐震壁5は、1階部分F1の全周を囲むようには設けられておらず、1階部分F1には、柱3間に隙間が形成されている。当該隙間は、津波が建築物1に到達したときに海水が1階部分F1を流れることを許容し、津波のエネルギーを受け流すためのものである。 【0016】 なお、本願において、耐震壁は、日本国における、建築基準法、当該法に基づく規則若しくは命令(例えば建築基準法施行令や建築基準法施行規則)、及び、これらを補足する告示(例えば国土交通省告示)における耐力壁の要件を満たすものをいうものとする。 【0017】 上記の法令等は、改正される可能性があるが、改正によって技術的範囲が変動しないように、上記の法令等は、本願出願時において改正が確定しているものをいうものとする。例えば、本願は、建築基準法であれば、平成二三年一二月一四日法律第一二四号により改正されたもの、建築基準法施行令であれば、平成二三年一一月二八日政令第三六三号により改正されたもの、建築基準法施行規則であれば、平成二三年四月二七日国土交通省令第三七号により改正されたものを参照するものとする。 【0018】 建築基準法等では、木造、鉄筋コンクリート構造等の構造毎に、耐力壁の要件を定めている。以下に、代表的な規定を例示する。 【0019】 木造:建築基準法施行令第46条第4項において、耐力壁が設けられるべき壁量等が規定されている。また、枠組壁工法により用いられる耐力壁については、平成13年10月15日国土交通省告示第1541号において、種々の仕様(材質、厚さ等)の耐力壁が列挙されるとともにその壁量等が規定されている。軸組については、昭和56年6月1日建設省告示第1100号において補足がなされている。 【0020】 補強コンクリートブロック造:建築基準法施行令第62条の4において、壁量、厚さ、鉄筋の径等が規定されている。 【0021】 鉄筋コンクリート造:建築基準法施行令第78条の2において、厚さ、鉄筋の径等が規定されている。 【0022】 壁式鉄筋コンクリート造:上記の建築基準法施行令第78条の2の他、平成13年6月12日国土交通省告示第1026号において、壁量等が規定されている。 【0023】 図2は、1階部分F1の平面図である。 【0024】 複数の柱3(図2では円形により示されている)は、基本的にx方向及びy方向に直線状に配列されている。ただし、y方向の最も外側に配列された複数の柱3は、建築物1の意匠等を考慮して、概ねx方向に延びる曲線に沿って配列されている。複数の柱3の間隔は、建築基準法等の法令に従う限りにおいて適宜に設定されてよいが、例えば、7m程度である。 【0025】 複数の耐震壁5(図2では太線で示されている)は、x方向に面する耐震壁5及びy方向に面する耐震壁5を含んでいる。複数の耐震壁5は、2本の柱3間に亘って設けられており、当該2本の柱3に連結されている。なお、耐震壁5の連結方法は、建築基準法等の法令に従っている。 【0026】 複数の耐震壁5は、x方向に1階部分F1を直線状に貫通する隙間7XA及び7XB、及び、y方向に1階部分F1を直線状に貫通する隙間7YA及び7YBが形成されるように配置されている(以下、7A、7B、7X若しくは7Yのように、X、Y、A及び/又はBを省略することがある。)。具体的には以下のとおりである。 【0027】 x方向に面する耐震壁5とy方向に面する耐震壁5とは、柱3を介在させて連結され、平面視L字状のL字壁9を構成している。各L字壁9は、L字の凹側の面を建築物1の重心G1に向けるように配置されている。また、複数のL字壁9は、重心G1を幾重にも囲むように、x方向及びy方向に対して斜めの4方に配置されている。さらに、複数のL字壁9は、基本的に、重心G1を通りx方向に延びる対称軸A1に対して線対称に、且つ、重心G1を通りy方向に延びる対称軸A2に対して線対称になるように配置されている。 【0028】 従って、対称軸A1及びA2上においては、L字壁9の内側面(凹側の面)に挟まれた隙間7XA及び7YAが形成されており、その外側においては、L字壁9の外側面(凸側の面)とその外側に位置するL字壁9の内側面とに挟まれた隙間7XB及び7YBが形成されている。また、x方向に貫通する複数の隙間7Xがy方向に配列されており、y方向に貫通する複数の隙間7Yがx方向に配列されている。なお、L字壁9は、平面視において直角三角形の障害物と捉えることもでき、当該直角三角形の斜辺側にはx方向及びy方向に傾斜する方向の隙間8も生じている。 【0029】 隙間7は、x方向又はy方向に概ね直線状に1階部分F1を貫通している。隙間7の幅は、例えば、2本の柱3の間隔の1〜3つ分である。本実施形態では、対称軸A1上の隙間7XAの幅は柱3の間隔の2つ分とされており、対称軸A2上の隙間7YAの幅は、柱3の間隔の3つ分とされており、それ以外の隙間7Bの幅は柱3の間隔の1つ分とされている場合を例示している。 【0030】 2階以上の階の、隙間7XA及び7YAと重なる領域は、通路及び/又は多目的オープンスペースとして利用可能に、耐震壁が設けられていない。これに伴い、1階部分F1の隙間7XA及び7YAの領域においては耐震壁5が設けられず、隙間7XA及び7YAは、隙間7XB及び隙間7YBより幅が広く構成されている。なお、隙間7XA及び7YAも、通路及び/又は多目的オープンスペースとして利用可能である。 【0031】 隙間7YAの領域においては、複数の柱4(図2では矩形により示されている)が対称軸A2に沿って対称軸A2の両側に設けられている。柱4は、通路用の補助的柱である。 【0032】 建築物1においては、基本的には、複数の柱3のうち最外周に位置する柱3の位置には耐震壁5は設けられていない。従って、最外周に位置する柱3と、最外周に位置する耐震壁5との間においても隙間(符号省略)が形成されている。 【0033】 1階部分F1の紙面左上及び右下の2つの角部においては、耐震壁5が矩形状に配置されている。当該矩形に配置された耐震壁5は、階段等によって構成される2階部分への導線を囲んでいる。なお、当該角部の耐震壁5は、設けられなかったり、耐力壁の要件を満たさない雑壁とされたりしてもよい。 【0034】 この2つの角部において矩形に配置された耐震壁5により、建築物1において、複数の耐震壁5(L字壁9)の配置は、完全にはx方向及びy方向において線対称となっていない。ただし、複数のL字壁9は、その壁長さの合計の8割以上において、x方向において線対称且つy方向において線対称となっている。すなわち、建築物1では、30個のL字壁9のうち28個(7×4)は、x方向において線対称且つy方向において線対称であるから、8割以上(28/30=0.93)がx方向において線対称且つy方向において線対称である。 【0035】 また、紙面左上若しくは右下の角部における耐震壁5によって、最外周の柱3の内側においてx方向に延びる隙間及びy方向に延びる隙間は、一端が塞がれている。ただし、上述のように、このような耐震壁5を設けないようにしてもよい。すなわち、当該隙間も、耐震壁5間の隙間7と同様に、x方向及びy方向において1階部分F1を貫通するようにしてもよい。 【0036】 以上のとおり、本実施形態によれば、建築物1は、水平なx方向に面する耐震壁5、及び、水平でx方向に直交するy方向に面する耐震壁5を1階部分F1に有する2階以上の建築物であって、x方向へ1階部分F1を直線状に貫通する隙間7、及び、y方向へ1階部分F1を直線状に貫通する隙間7が形成されている。 【0037】 従って、地震に対する耐性が高いだけでなく、その後に生じる可能性のある津波に対しても耐性が高い。具体的には、x方向又はy方向から建築物1へ津波が到達したとしても、海水を隙間7において流すことによって、津波のエネルギーを受け流すことができる。その後、津波の引き波が生じたときにも、建築物1は、そのエネルギーを受け流すことができる。引き波の進行方向は、建築物1の周囲の地形等によって規定され、必ずしも到来した津波の進行方向の逆方向とはならない。しかし、x方向及びy方向の双方に隙間7が形成されていることによって、任意の方向の引き波のエネルギーを受け流すことができる。 【0038】 また、建築物1では、x方向に面する耐震壁5とy方向に面する耐震壁5とが互いに隣接して構成された平面視においてL字のL字壁9が複数設けられ、複数のL字壁9は、平面視において、建築物1の重心G1を囲むように凹側の面を重心G1に向けてx方向及びy方向に対して斜めの4方に配置され、凹側の面間にx方向へ貫通する隙間7XA及びy方向へ貫通する隙間7YAを構成している。 【0039】 従って、重心G1の位置と建築物1の剛心の位置とを一致させて耐震性を向上しやすい。また、1階部分F1の一方側のみに隙間7を構成する場合(耐震壁5が他方側にのみ設けられ、一方側は柱3によって耐力を得ている場合等)に比較して、津波が耐震壁5に付与するエネルギーを分散させやすく、建築物1の崩壊も抑制されることが期待される。 【0040】 また、建築物1では、複数のL字壁9は、x方向(y方向でもよい)に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのx方向外側に位置するL字壁の凹側の面にy方向に貫通する隙間7YBを更に構成している。 【0041】 従って、比較的大きな建築物1においても、好適に津波のエネルギーを受け流すことができる。すなわち、大きな建築物1において大きな隙間を1つだけ形成する場合(連続した耐震壁5を設ける場合)に比較して、津波の粘性圧力抵抗を少なくして津波のエネルギーを好適に受け流すことができる。また、津波が耐震壁5に付与するエネルギーを分散させやすく、建築物1の崩壊が抑制されることも期待される。 【0042】 さらに、建築物1では、複数のL字壁9は、x方向に加えて、y方向に2重以上配置され、L字壁の凸側の面と、そのy方向外側に位置するL字壁の凹側の面とによってx方向に貫通する隙間7XBを更に構成している。すなわち、x方向に貫通する隙間7Xと、y方向に貫通する隙間7Yとがそれぞれ複数形成されている。 【0043】 従って、単にx方向及びy方向の双方において津波及びその引き波のエネルギーを受け流しやすくなるというだけでなく、斜めの隙間8も形成され、津波の引き波の多様性に好適に対応することができる。 【0044】 なお、以上に述べた複数のL字壁9をx方向及びy方向に対して斜めの4方に1重若しくは多重に配置する構成の効果は、特に、複数のL字壁9がx方向において線対称且つy方向において線対称に配置されているときに顕著となる。しかし、全てのL字壁9をそのように対称に配置することは必ずしも容易ではない。ここで、全てのL字壁9がそのように対称に配置され、且つ、L字壁9の数が最小であるのは、L字壁9が4個のときである。この4個の対称に配置されたL字壁9に、非対称のL字壁9の最小数(1個)が加えられた場合における、対称に配置されたL字壁9の全てのL字壁9に対する割合は8割(4/5)である。従って、当該8割は、対称性の判断の一つの目安にしてよいと考えられる。 【0045】 また、津波の被害抑制の効果は、本実施形態の構成を、一の建築物だけでなく、近隣の複数の建築物に適用することによって向上する。具体的には、津波に流された建築物が他の建築物に衝突し、当該他の建築物が破壊若しくは流されることが抑制される。 【0046】 東北地方太平洋沖地震では、7mを超える高さ(波高)の津波も観測されている(最大で8.5m程度といわれている。)。一方、隙間7の高さは建築物1の1階分であり、例えば4m程度である。すなわち、津波の高さは、隙間7の高さよりも高い。 【0047】 しかし、津波は、陸に到達してから建築物1まで進むまでに、その高さ(地盤からの高さ:浸水深)が、概ね、建築物1の敷地の標高だけ減じられることが期待される。従って、例えば、建築物1が標高4mの位置に建てられるのであれば、建築物1は、海上における高さが8mの津波のエネルギーも受け流すことができると期待される。 【0048】 さらに、本願発明者の鋭意検討の結果、陸に進んだ津波の高さは、概ね、防波堤の高さで減じられることも分かった。 【0049】 図3は、その知見を示す平面図である。 【0050】 実線L1は、仙台市内の海岸線を示している。実線L2は、国土地理院の調査した浸水範囲(津波が到達した位置)を示している。点線L3は、標高4mの位置を示している。点線L4は、標高8.5mの位置を示している。なお、これらの線はいずれも概略位置を示すものである。 【0051】 領域R1においては、標高4mを示す点線L3と、津波が到達した位置を示す実線L2とが概ね一致している。一方、領域R2においては、標高8.5mを示す点線L4と、津波が到達した位置を示す実線L2とが概ね一致している。 【0052】 領域R1と領域R2との津波に対する条件の相違を調査すると、実線L1で示す海岸付近においては、概ね4mの防波堤が設けられていたところ、領域R1の海岸側においては防波堤が残っていたのに対して、領域R2の海岸側の位置P3においては、地震及び津波によって防波堤が破壊されていたことが分かった。 【0053】 従って、図3から、陸上における津波の高さ(海面からの高さ:浸水高)は、海上における津波の高さ(推定8.5m)から概ね防波堤の高さに相当する高さ(4m)が減じられた高さになっている(浸水深は更に標高が減じられた大きさになっている)と推定できる。 【0054】 以上のことから、例えば、高さが4mの防波堤を建設すれば、標高が0mの土地に建築物1が建てられたとしても、建築物1は、海上における高さが8mの津波のエネルギーも受け流すことができると期待される。 【0055】 このように、本実施形態に係る建築物1は、防波堤との組み合わせによって、海岸付近に建てられた場合においても、東北地方太平洋沖地震における津波級の大きな津波に対応できる。従って、建築物1は、高台への移住を不要としたり、海岸付近の土地の有効活用を可能としたりすることができ、非常に有用である。 【0056】 (第2の実施形態) 図4は、第2の実施形態に係る建築物101の1階部分F101を示す平面図である。なお、図4では、柱3を矩形で示している。 【0057】 建築物101は、特に図示しないが、2階以上の建築物である。そして、建築物101の1階部分F101も、第1の実施形態の1階部分F1と同様に、水平なx方向に面する耐震壁5、及び、水平でx方向に直交するy方向に面する耐震壁5を有し、x方向へ1階部分F101を貫通する隙間7X、及び、y方向へ1階部分F101を貫通する隙間7Yが形成されている。従って、第1の実施形態と同様に、建築物101は、地震に対する耐性を有するとともに、津波及びその引き波のエネルギーを受け流すことができる。 【0058】 建築物101は、2階のx方向正側(図4の紙面右側)に不図示のプールを有している。そこで、1階部分F101のx方向正側においては、そのプールの重量を支えるために、十字状に連結された耐震壁5が設けられている。 【0059】 建築物101においては、上記のような事情等から、複数の耐震壁5の配置は、対称配置とはされていない。このように、建築物の目的等の種々の事情によっては、重心と剛心とを一致させることに関して理想的な耐震壁の対称配置は不可能である。しかし、複数の耐震壁が平面的に偏らずにx方向及びy方向に分散配置されて、必要壁量を満たしていれば、地震による建築物のねじれ等がなくなり、ねじれ破壊を免れる。 【0060】 また、十字状に連結された耐震壁5の周囲には十分なスペースが確保されていることから、隙間が直線状に設けられていなくても、津波のエネルギーを受け流すことができる。 【0061】 なお、建築物101においては、複数のL字壁9は、凹側の面間にx方向へ直線状に貫通する隙間及びy方向へ直線状に貫通する隙間を構成するように建築物101の重心(不図示)を囲むように凹側の面を重心に向けてx方向及びy方向に対して斜めの4方に配置されていない。 【0062】 本発明は、以上の第1及び第2の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。 【0063】 1階部分をx方向又はy方向に直線状に貫通する隙間は、耐震壁間に形成されるものに限定されず、柱間に形成されるものであってもよいし、柱と耐震壁との間に形成されるものであってもよい。 【0064】 耐震壁は、適宜な配置とされてよく、L字壁は必ずしも設けられる必要は無い。また、L字壁が設けられる場合において、第2の実施形態において例示したように、L字壁は、凹側の面間に直線状に貫通する隙間を構成するようにx方向及びy方向に斜めな4方に配置される必要はなく、適宜に配置されてよい。L字壁がx方向及びy方向に斜めな4方に配置される場合において、L字壁は2重以上配置される必要はない。また、L字壁が2重以上配置される場合において、その間に、L字壁を構成しない耐震壁がL字壁による隙間を塞がないように配置されてもよい。 【0065】 1階部分は、居住空間や資材置き場などに利用されないことが好ましい。ただし、津波のエネルギーを受け流す機能に及ぼす影響が大きくならない範囲で種々の目的に利用されてもよい。同様に、隙間は、簡単に建築物1から外れる看板や垂れ幕によって塞がれるなど、津波のエネルギーを受け流す機能に及ぼす影響が大きくならない範囲で適宜に塞がれてもよい。 【符号の説明】 【0066】 1…建築物、5…耐震壁、7XA・7YA・7XB・7YB…隙間、F1…1階部分。 |
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【図1】 |
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【図2】 |
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【図3】 |
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【図4】 |
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2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震で、仙台市内の海岸付近の建物の大半が津波に流された。その津波の高さは8.5mであった。しかし、流されずに残った数個の建物は1階に開口が有り、津波に抵抗することなく、津波が開口を流れ去っていた。津波の浸水地域の調査結果(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループの速報値、2011年5月9日:参考図)によると、防波堤内外、河口周辺および防波堤破壊場所付近についての結果、防波堤の破壊の無い地域の防波堤内側、川周辺および内陸では浸水高さは4mまで低減されていた。即ち、防波堤で津波高さは約半減されている。1階の階高が4mで、津波を効率よく流し、開口を設けることで、今回の津波に対して建物の被害を最小限にできる。この特許の建築物は地震時対策として必要壁量を確保し、開口を1階に設け、その壁の配置計画により、効率よく津波を流す手法で設計されている。 参考図 観測点の地形範囲での浸水高と浸水深 |
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